63シーズン分のブンデスリーガの歴史の中で、最終節に3チームが全く同じ勝ち点で並んだことは一度もなかった。それが今季、初めて起きた。
18位ザンクトパウリ、17位ハイデンハイム、16位ヴォルフスブルクが同勝ち点のまま最終節を迎えた2026年5月16日。得失点差の差でのみ順位が分かれているという異常事態だった。ザンクトパウリのホーム・ミルンターには日本人3人の姿があった。藤田譲瑠チマ(MF)、安藤智哉(DF)、原大智(FW)。攻守それぞれのポジションから1人ずつ、という構成だ。
試合はヴォルフスブルクのクーリエラキスが37分に先制。後半にザンクトパウリがチーザイのゴールで追いついたが、64分にGKヴァシリのオウンゴール、80分にペイチノヴィッチに追加点を許し1-3で終わった。最終順位18位、降格確定。3万人のミルンターが沈黙した瞬間だった。
藤田譲瑠チマ:32試合・296タックルと1本のクロスバー
数字だけ見れば、藤田はチームで最も「やった」選手だ。32試合出場、タックル成功296回、走行距離313km、シュート30本(うち枠内6本)。これだけのボリュームをこなしながら1ゴール3アシストにとどまった事実が、チームの苦境を物語っている。
枠内シュート6本でゴールはわずか1本。あと数センチ内側だったら——そう感じさせる場面が今季何度もあった。Total Football Analysisは今季の藤田を「高度にプログレッシブで、ポゼッション貢献に優れたミッドフィールダー(highly progressive and possession-based midfielder)」と評している。ボランチからトップ下、左右ウイングまで複数ポジションをこなした結果、評価指標が散らばった側面もある。
降格が決まった今、クラブを去る可能性も高い。ドイツ現地紙MOPOは5月上旬、「2部降格となれば藤田は残留を受け入れないだろう」と報じた。これはあくまで現地メディアの観測報道だが、ブンデスリーガの主軸として定着しようとしていた選手が、1年でまた新たな居場所を探す展開になるかもしれない。
安藤智哉:冬加入・約4ヶ月、103タックルの壁
安藤智哉がザンクトパウリに加わったのは1月。アビスパ福岡でJ1に出場し続けた26歳のセンターバックが、降格圏に沈むクラブのSOSに応えた形だった。
15試合、タックル成功148回、クリアランス59回、空中戦39回、1アシスト。守備のスタッツは数字として残っているが、この「59回のクリアランス」という数字こそが、後半戦の安藤の仕事内容を端的に示している。相手のシュートを止め、クロスをはね返し、ゴール前の混戦を何度も清掃した。それでもチームは最下位で終わった。RotoWireは最終節前、安藤について「直近3試合でタックル9回(7回成功)・クリアランス14回と守備の要として奮闘している」と記録している。
試合後のコメントはない。ただ、安藤と原大智の2人は「リーグ不問条項」付き契約でザンクトパウリとの契約が続くとされる。2部でも戦い続けるか、それとも再びJリーグへ戻るのか。彼のキャリアにとって、この約4ヶ月が何を意味したかはこれからの選択が示すことになる。
原大智:4試合・24分のブンデスリーガ
京都サンガで2025シーズンのJ1を34試合5ゴールで終えた原大智(はら・たいち)は、1月の冬移籍市場最終日にザンクトパウリへ加入した。「ブンデスリーガで通用するストライカー」として獲得された選手のはずだった。
今季リーグ戦での出場は4試合、プレー時間は合計約24分。ゴールもアシストも記録されていない。Jリーグでの実績とのギャップがここまで大きかった理由は、指揮官ブレッシンが終盤戦で前線をほぼ固定したからだ。攻撃の改善を切望するなかで、チームには原を長い時間試す余裕がなかった。
この24分という数字が、原大智にとって挫折を意味するかどうかはまだわからない。ただ、Jリーグで積み上げた数字と、ブンデスでの現実の落差は直視する必要がある。「リーグ不問契約」の存在を踏まえれば、2部での巻き返しという選択肢も残されている。
なぜ前季2位の堅守が崩壊したのか
2024-25シーズンのザンクトパウリを振り返れば、失点はわずか41。リーグ2位の堅守で14位を確保し、「2億円台の補強費でブンデスを生き残った奇跡」と称えられた。ではなぜ翌シーズンに崩れたのか。
答えはシンプルで残酷だ。攻撃力の不足だ。今季の1試合平均得点はリーグ最下位レベルで、守備が崩れる前に点を取れなくなっていた。ブレッシン監督は最終節後に「弾みをつけられず、陣形を維持できず、守備も悪かった(We couldn’t get momentum, we couldn’t keep our shape, and our defense was bad)」と振り返ったが、本質は終盤10試合で勝ち点3しか積み上げられなかった攻撃の貧困さにある。主将アーヴァインも率直だった。「34試合で勝ち点26では残留には足りない。重要な局面で結果を出せなかった選手たちは責任を受け入れなければならない(34 games and 26 points isn’t enough to stay up. Players who didn’t perform when it mattered need to accept that responsibility)」。
冬に3人の日本人を補強したことはクラブの現状認識を示している。前線の得点力(原)と守備の安定(安藤)という2つの課題を、Jリーグという「コストパフォーマンスが高い市場」から調達しようとした。それ自体は論理的な判断だった。ただ、冬の補強がシーズンの流れを変えるには、時間が足りなかった。
3人の選択、これから
降格後、3人の去就は方向性が異なる。
藤田については、現地メディアが2部残留を受け入れない可能性を報じている。2026年夏のW杯北中米大会の日本代表候補として名前が挙がる選手が、2部のピッチで戦い続けるシナリオは現実的ではないかもしれない。次の移籍先がどのリーグになるかが注目される。
安藤と原はリーグ不問の契約条件で引き続きザンクトパウリに在籍する可能性がある。2部降格というネガティブな状況でも、欧州でのプレーを継続する選択には意味がある。Jリーグからドイツへ渡ったキャリアパスは、正念場を迎えている。
キャプテンのアーヴァインは「このクラブは特別だ。このような素晴らしいファンのいるクラブに所属できることを誇りに思う」と話し、2部でも戦い続けることを明言した。ミルンターに集まった3万人が、降格後もYou’ll Never Walk Aloneを歌い続けた事実は、日本人3人が戦ったクラブの本質を示している。
数字の上では失敗のシーズンだ。しかし3人がそれぞれ異なる形でこのクラブに捧げた時間は、降格という結果だけで語り尽くせるものではない。次の場所で何を見せるか——それを問われるのは、これからだ。

