22歳が、一夜にして二冠を手にした。
2026年5月17日、コペンハーゲンのDF鈴木淳之介がファン投票によるクラブ年間MVPに選出された。その日の夜、デンマークリーグ最終節のランダース戦で今季2点目となるゴールも記録。さらに数日前にはW杯日本代表入りも発表されていた。湘南ベルマーレから欧州へ渡って約1年、岐阜県各務原市出身の若きDFが一気に主役の座をつかんだ。「鈴木淳之介って、そんなにすごかったの?」——この記事はそんな疑問に答えるための1本だ。
今季コペンハーゲンで何があったか
鈴木は2025年7月9日、湘南ベルマーレから5年契約でコペンハーゲンに完全移籍した。移籍金は900万クローネ(約2億2,100万円)と現地メディアが報じた。デンマーク、北欧、そして欧州という全く新しい環境での挑戦は、決して順風満帆なスタートではなかった。現地紙の報道によると、加入当初はコンディション面での課題を抱えたスタートだったという。
だが2025年10月以降は全試合でスタメン出場を続け、チームの守備を支える存在に成長した。最終的に今季は公式戦25試合以上に出場し、1ゴールを記録している。注目すべきは、多くの試合でセンターバックだけでなく右サイドバックとしても起用された点だ。「本職ではない右サイドバックでプレーしているにもかかわらず強烈なインパクトを残した」と現地紙は伝えており、ファンがMVPに選んだのもその貢献の大きさが理由だ。
CLで見せた真価
この1年で最もインパクトを残した舞台が、UEFAチャンピオンズリーグだ。鈴木は今季CLに複数試合で先発出場し、ドルトムント、トッテナム・ホットスパー、ナポリ、バルセロナといった欧州強豪クラブと真正面から渡り合った。
2026年1月のCLナポリ戦(アウェー)でのパフォーマンスはイタリア国内でも高く評価された。イタリア紙『la Repubblica』は「6.5点。俊敏で整然としたプレーで、試合を通して安定していた。鈴木は機敏だった」と評価。同じくイタリアの『Virgilio』も「欧州で経験に臨んでいる日本人センターバック。ラスムス・ホイルンという難敵に見事に対応した。注目すべき存在」と称賛した。さらに翌月のCLバルセロナ戦(アウェー)での活躍が欧州5大リーグのクラブの関心を呼ぶきっかけになったとも報じられた。
シーズン最終節ランダース戦での今季2点目のゴールは、そんな1年を締めくくる象徴的な一発だった。守備的なポジションからの得点は決して派手ではない。だがそのゴールがファンから大きな歓声を受けたのは、彼が積み上げてきた信頼の重さを物語っている。
MFからCBへ、異色の転換
鈴木のキャリアで見過ごせないのが、ポジションの変遷だ。帝京大学可児高校時代はボランチ(守備的MF)として出場し、全国高等学校サッカー選手権大会で優秀選手にも選ばれた。2022年に湘南に加入した後も、MF登録のまま出場を続けた。
転機は2024年のJリーグシーズン途中だった。CBとしての出場機会が増えると、そこで才覚を開花させた。MF登録のまま迎えた2024年10月には、CBとしての活躍が認められJリーグ月間ヤングプレーヤー賞を受賞。当時21歳の爆発的な成長を、Jリーグ公式も認定した形となった。
足元の技術とゲームを読む力はMF時代に磨かれたものだ。ドリブルでの前進、縦パスの差し込み、両足を使ったビルドアップと、欧州のクラブが現代のCBに求めるプロフィールを自然に備えている。コペンハーゲンで右サイドバックも難なくこなせているのも、その応用力の高さの表れだ。
2億円から始まった驚異の投資
移籍金の面でも鈴木の存在感は際立っている。湘南からコペンハーゲンへの移籍金は900万クローネ(約2億2,100万円)と報じられた。欧州の主要クラブが動く移籍金水準からすれば、決して大きな額ではない。いわば「掘り出し物」扱いでの獲得だった。
1年後、その評価は大きく変わっている。2026年1月の時点でコペンハーゲンが2000万ユーロ(約36億8,400万円)以上の移籍金を要求していると現地誌は報じた。「デンマーク1部リーグの移籍金記録を更新する可能性が高い」とも伝えており、CLでの活躍を踏まえた強気の要求として現地で話題を呼んだ。この情報はあくまで2026年1月時点の報道であり、現在の交渉状況は未確認だが、現地メディアは「大型売却案件となる可能性がある最高の補強だった」と評している。
なお移籍金2000万ユーロでの完全移籍が実現した場合、トランスファーマルクトの計算によれば湘南が連帯貢献金として約30万ユーロ(約5,500万円)を受け取る見込みとも伝えられている。2億2,100万円の投資が何倍にもなって返ってくる可能性を、関係者全員が静かに計算しているはずだ。
W杯メンバー唯一のデンマーカー
今回のW杯日本代表26名のうち、デンマークリーグに所属するのは鈴木ただひとりだ。プレミアリーグや5大リーグに所属する選手が大半を占める代表メンバーの中で、北欧から選ばれたという事実は、それだけでも特別な意味を持つ。
岐阜県出身選手として史上初のW杯代表入りとも伝えられており、地元・岐阜の期待を一身に背負う存在でもある。初選出は2025年5月23日のこと。W杯アジア最終予選に向けた代表招集で、同年6月10日のインドネシア戦に先発出場し代表デビューを果たした。
デビュー戦で持ち味を示した鈴木は、その後も2025年11月のガーナ戦でスタメンフル出場し「守備では予測の速さで相手アタッカーをしっかり抑え込み、攻撃では効果的な持ち運びと配球で存在感を示した」と評された。2026年3月のイングランド戦では途中出場を果たすなど、着実に代表での実績を積み上げている。「レベルの高い中でも、ビビらずやれるのが持ち味だと思います」という本人の言葉が、代表での立ち振る舞いをそのまま表している。
ユース代表歴のないまま初招集からW杯選出まで約1年という速度は、近年の日本代表においても際立つ。現在の国際Aマッチ出場数は6試合だ。
22歳のDFが背負うもの
W杯を前に、鈴木には「日本代表の最終ラインをどう守るか」という問いが突きつけられる。板倉滉、谷口彰悟、町田浩樹といったレギュラー陣がいるなか、出番がどれほど与えられるかは未知数だ。しかしコペンハーゲンでの1年間は、「出番を与えられれば結果を出せる」という証拠を積み上げた。
大舞台での緊張感に慣れる環境としても、CLは最良の修練の場だった。ナポリやバルセロナの攻撃陣と渡り合った経験は、W杯本番で冷静に振る舞うための土台になるはずだ。CBも右SBもこなせる万能性は、複数ポジションをカバーできるバックアッパーとしての価値を高めている。
これからの鈴木淳之介
デンマーク杯決勝ではミッティランに0-1で敗れ、完全制覇は果たせなかった。だがクラブMVPの受賞、CLでの活躍、W杯選出という一連の達成は、22歳のDFが確かに欧州で通用することを証明した1年として記憶されるだろう。
今夏の移籍市場で鈴木の名前が出てくるかどうか、W杯本番でどんなパフォーマンスを見せるか。2026年は、鈴木淳之介という名前が日本中に広まる年になるかもしれない。デンマークから世界へ、その物語はまだ序章だ。

