PSGがバイエルンに5-4で勝てた理由:xGで負けても勝つ【CL準決勝】

チャンピオンズリーグ

xGでは「負けていた」PSGが5点取った理由

事実上の決勝戦とも言われる、チャンピオンズリーグ準決勝 第1戦。バイエルン・ミュンヘンのほうが、チャンスは多かった。

ビッグチャンスの数は6対2でバイエルンが上回り、期待得点(xG)もバイエルンの2.51に対しPSGは1.91と、「実力」ではむしろバイエルンが圧倒していた。ポゼッションも57対43でバイエルン優勢だ。

それでも、スコアはPSG 5-4。これが、ルイス・エンリケ監督のチームを語るうえで最も重要な事実だ。

「フローター」と「アンカー」という設計図

PSGには独自の戦い方がある。その戦い方のルールを理解するキーワードが「フローター」と「アンカー」だ。

シンプルに説明するとこうだ。PSGには常に一定のポジションを守らなければならない選手(アンカー)と、ピッチ上を自由に動いていい選手(フローター)がいる。アンカーは2人のCBと、左右のタッチライン、そして最前線の誰か。これら5つのゾーンは常にどこかの選手で埋められていなければならない。

例えばクヴァラツヘリアが左ウィングから中央に絞ると、左SBのメンデスが自動的に左ウィングのポジションへ移動する。誰かが動けば、別の誰かがそのゾーンを埋める。これを「ゾーン置換」と呼ぶ。外から見ると「全員が自由に動いている」ように見えるが、実際は全員が頭の中でルールを処理しながら動いている。バイエルンのような世界最高の守備組織でさえ、誰をマークすればいいか分からなくなる理由がここにある。そこでバイエルン側では混乱やカオスが生じ、少ないチャンスでもゴールネットを揺らす可能性が高まる。これこそがPSGが圧倒されながらも5得点という大きな成果を挙げた大きな理由の一つだと考えられる。

デンベレだけがなぜ「どこにいてもいい」のか

このシステムで唯一、完全な自由を与えられている選手がいる。バロンドール受賞者、ウスマン・デンベレだ。

「ストライカー」として登録されているデンベレは、しかし試合中にしばしば守備的MFのポジションに現れる。バイエルン戦でもその動きが効果的に機能した。相手DFがデンベレを追って本来のポジションを離れると、その空いたスペースに別のPSG選手が飛び込んでくる。68分間で2ゴールを奪ったデンベレの本質的な貢献は、「どこにいるか分からない」という存在感そのものにある。

5-2から3点を返された「当然の理由」

では、5-2から3点を返されたのは守備崩壊だったのか。データが示すのは少し違う答えだ。

バイエルンのボックス内タッチ数はPSGのそれを圧倒しており、ビッグチャンスも6回あった。5-2になるまでに、バイエルンはすでに多くのチャンスを作り続けていた。PSGの守備がある瞬間だけ崩れたのではなく、試合を通じてバイエルンはチャンスを作れていた。5-2から3点が入ったのは「守備崩壊」ではなく、バイエルンが本来の実力を発揮し始めた結果に近い。

ルイス・エンリケは試合前に「守備の統計が勝敗を決める。一貫性ではバイエルンが我々をわずかに上回っている」と正直に認めていた。そのうえで5点取って勝った。

「崩れながら勝てる」は設計の範囲内

この試合を一言で表すなら、「PSGはxGで負けながら決定力で上回り、CLセミファイナル史上最多得点試合を制した」となる。

その背景には、守備の安定よりも攻撃の効率を最大化するという明確な設計思想がある。ルイス・エンリケは「20人全員がどこでもプレーできる選手が欲しい」と語った。これは夢物語ではなく、このシステムが機能するために必要な現実的要件だ。全員が複数のポジションをこなせなければ、フローターとアンカーの入れ替わりは成立しない。

5-4という数字は混乱ではない。あの試合は、ルイス・エンリケが設計した「崩れているように見えて崩れていない」フットボールの最も過激な表現だった。

第2レグは5月6日、ミュンヘンのアリアンツ・アレーナ。バイエルンはxGで上回っていた事実を引っ提げて、ホームで逆転を狙う。PSGはまたあの「理解できない勝ち方」をするかもしれない。

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