5月31日、国立競技場に62,212人の観衆が詰めかけたキリンチャレンジカップ2026。日本代表は後半87分、小川航基(NECナイメヘン)のヘディングシュートでアイスランドを1-0で下し、W杯本番へ白星をもって旅立った 。その試合の後半26分、中村敬斗に替わってピッチに現れたのが、21歳のFW塩貝健人(VfLヴォルフスブルク)だった 。
国際Aマッチわずか2試合目。だがその20分足らずのプレーは、スポーツ報知に「見る側に期待をもたせる躍動感あるプレー。大舞台でやってくれそうな匂いがプンプンする」と評価され、採点は6.0点 。SNS上でも「塩貝良い顔してた」といった反響が広がった 。W杯前最後の壮行試合で、21歳は確かな爪痕を残した。
W杯前最後の実戦を1-0で制する
試合は終始、日本がボールを支配した。前半は相手の堅守に手を焼き0-0で折り返したが、後半に入って日本は次々と手を打つ 。後半26分、塩貝は後藤啓介(シント=トロイデン)、渡辺剛(フェイエノールト)とともに3枚替えで投入された 。フレッシュな足が入ったことで試合のギアが上がり、後半87分に菅原由勢の右クロスを小川が頭で合わせ、待望の決勝弾が生まれた 。
日本はこれで欧州勢との対戦成績を8勝1分けとし、連勝を6に伸ばした 。前半に前主将・吉田麻也の花道セレモニーという感動的な場面もあった中、試合はフットボールの結果でも締まった格好だ 。
慶應大からW杯まで、2年半の急成長
塩貝健人という選手を知らない読者のために、まずその経歴を整理したい。2005年3月26日生まれ、東京都出身。國學院久我山高校から慶應義塾大学ソッカー部へ進んだ塩貝は、大学在学中の2024年1月に横浜F・マリノスの特別指定選手として出場し、プロとしての第一歩を踏み出した 。
同年6月には、U-19日本代表としてモーリスレベロトーナメントに出場。イタリア戦でハットトリックを含む5ゴールをマークし、大会得点王に輝く 。そのプレーを見ていたNECナイメヘンのテクニカルディレクター、カルロス・アルベルスが即座に動いた。「イタリア戦での塩貝のプレーは本当に特別なものだった。すぐに連絡を取り始めた」と後に語っている 。
オランダ1部でのプレーは衝撃的だった。途中出場が中心のシーズンで12試合9ゴールという数字を叩き出し、2026年1月にはVfLヴォルフスブルクが1000万ユーロ(約18.5億円)の解除金を支払って引き抜いた 。かつて長谷部誠も在籍した欧州5大リーグのクラブへ、慶應大からわずか1年半でたどり着いた計算になる 。
スコットランド戦での鮮烈デビューがW杯切符を呼んだ
2026年3月、塩貝は初めてA代表に招集された。グラスゴーのハムデン・パークで行われたスコットランド戦(キリンワールドチャレンジ2026)、後半33分からの15分間出場でいきなりアシストを記録。伊東純也の決勝弾をお膳立てし、日本の1-0勝利に貢献した 。試合後、伊東は「結構ストライカーだなと思った」と素直に驚きを口にしている 。
本人は試合後、「得点が一番の評価なので、アシストという結果は悪くはなかった」と冷静に振り返った 。喜びより悔しさが先に来るあたりに、ストライカーとしての性分が透けて見える。この15分のパフォーマンスが、国際Aマッチ1試合という異例の少なさでのW杯選出につながったとみられている 。
36.2km/hのスプリントと「短時間で仕事をする」技術
塩貝の最大の武器はスピードだ。練習中の計測で最高速度36.2km/hを記録しており、カタールW杯の日本代表で最速だった前田大然の計測値34.7km/hを上回る数字である 。ただ、塩貝が単なるスプリンターではないことは、スコットランド戦のアシストシーンが証明している。
「与えられるチャンスが短いのは当たり前。その中でも結果を残せるのが僕」という言葉は、自分の立ち位置を正確に理解した上でのコメントだ 。ツートップで守備タスクが多い状況でも「しっかり戻れるのが自分の特徴」と語るなど、得点以外での貢献も意識している 。守備への参加を厭わない姿勢は、現代の高強度サッカーを戦う代表チームにとって見逃せない要素だ。
「得点王にしておきます」。21歳の強気発言が意味するもの
今回のW杯活動期間中、塩貝は数々の強烈な発言を残している。帰国会見での「目標は得点王。それしかなくないですか?」は国内のサッカーファンの間で大きな話題となった 。「アンチ待っています。波風立てずにやっていても意味ない」「自分のゴールで黙らせるだけ」と言い切る姿には、21歳特有の無邪気さと、計算された自己プレゼンが混在している 。
こうした発言は、単なる「炎上ねらい」ではないだろう。アイスランド戦前の合宿合流時には「監督だけじゃなく選手たちにも、自分がどういう選手かをアピールしていきたい」と語っており 、FWというポジションがパスをもらって初めて輝けることを理解している選手の言葉として読める。チームメートに自分を印象づけ、「こいつにボールを預けたい」と思わせることも、代表生活での生き残り戦略のひとつだ。
チーム内序列とジョーカーとしての現実
アイスランド戦での起用を整理すると、現在の序列は見えやすい。後半から頭から出場した小川航基に対し、塩貝は後半26分という遅い投入だった 。前線のポジション争いにおいて、小川が現時点での序列上位にいることは確かだ。
それでも塩貝は「ジョーカーでいい」とは言っていない。「ストライカー1番手を取りに行く」という発言を繰り返している 。その強気が現実と乖離しているかというと、そうとも言いきれない。スコットランド戦での12分アシスト、アイスランド戦での20分間の躍動感。「短時間で印象を残す」という実績を着々と積み上げているからだ。W杯本番で勝負が決まるのは、スターター11人の力だけではない。
W杯本番で輝く可能性
日本のグループステージの相手は、FIFAランク2位のオランダ(6月15日・日本時間)、36位のチュニジア(同21日)、21位のスウェーデン(同26日)だ 。強豪相手に先発11人だけで90分を戦い抜くのは難しく、ゲームの流れを変える交代選手の質が問われる大会になる。
試合が膠着した局面、守りに入った相手の背後を突く展開、最後の10分間でのスプリント勝負。そのいずれにおいても、36.2km/hのスプリンターは怖い存在になりえる 。2年半前、関東の大学サッカーでプレーしていた21歳が、世界最大の舞台にたどり着いた。強気な言葉の裏にある根拠は、着実に積み上がっている。
