106日でチェルシーロシニアー監督解任決定、ベーリー体制の病理

イングランド

106日間と5試合連続無得点の現実

106日。それがリアム・ロシニアーというチェルシー監督の全てだった。

2026年4月22日、チェルシーはロシニアーの解任を正式発表した。解任の引き金となったのは、5試合連続敗戦、そして5試合で1点も奪えなかったという屈辱的な事実だ。ブライトン戦での0-3完敗は、1912年以来114年ぶりのスコアリングドラフト(得点できない時期の継続記録)として歴史に刻まれた。チェルシーが最後にこれほどひどい状態だったのは、まだ第一次世界大戦が始まる前だ。

試合後のロシニアーは、珍しいほど率直だった。「受け入れられない、弁護の余地もないパフォーマンスだった。欲望も、精神も、勇気もなかった」。ロシニアーはスカイスポーツのカメラに向かって、自分のチームをそう切り捨てた。スタジアムのスタンドでは、チェルシーファンが彼の名前を叫んでいた。解任コールとともに。

その翌日、クラブから一行の声明が出た。「最近の結果とパフォーマンスは、クラブに求められる水準を下回っていた」。それがすべてだった。

ベーリー就任4年間、6人目の監督

問題は、ロシニアーが「最初」ではないことだ。

2022年5月、トッド・ベーリー率いるコンソーシアムは42億5,000万ポンド(約8,500億円)を支払い、ロシア人オーナーのアブラモビッチから18年続いたクラブを買い取った。それからわずか4年で、チェルシーは6人の指揮官を失った。

時系列で整理すると、これほど目まぐるしい。

トーマス・トゥヘル(2022年9月解任)、グレアム・ポッター(2023年4月解任)、フランク・ランパード(暫定)、マウリシオ・ポチェッティーノ(2024年退任)、エンツォ・マレスカ(2025年12月解任)、そしてリアム・ロシニアー(2026年4月解任)。欧州の名だたるクラブで実績を持つ監督が次々とチェルシーというシステムの前に砕け散った。

ESPNは衝撃的なデータを記録している。ベーリー体制下で永久契約を持つ監督の中で、50試合以上指揮した者はただの一人もいない。平均すると、監督は1年もたない。

17億ユーロで何が残ったか

数字はさらに残酷だ。

ベーリー就任以来、チェルシーの移籍市場での支出総額は約17億ユーロ(約2兆8,000億円)に達する。初年度だけで6億1,240万ユーロを投じ、軒並み60億円超の選手をかき集めた。

それでも、この4年間でチェルシーはリーグ優勝をしていない。欧州カップのタイトルも手にしていない。2023年にはクラブ史上最低水準の勝ち点44でシーズンを終え、欧州の舞台さえ失った。17億ユーロという数字が浮かぶたびに、頭に残るのはただ一つの問いだ。「この金は、どこへ消えたのか」。

金があれば強くなるわけではない、という当たり前の話ではない。問題はもっと根深い。

なぜロシニアーは選ばれたのか

ロシニアーが2026年1月にチェルシーの監督に選ばれた経緯は、クラブの構造的な問題を鮮明に映し出している。

彼はチェルシーの親会社BlueCo傘下のクラブ、フランスのストラスブールを指揮していた。つまり、「グループ内から監督を調達する」という内製システムの実験台として白羽の矢が立ったとも言える。プレミアリーグの頂点を争うクラブの監督を、プレミアリーグのチャンピオンシップ(2部相当)で2024年に解任された人物に任せた。この判断の論理は、現場のサッカー的判断よりも、オーナーグループの組織論が優先された可能性を示唆している。

「ロシニアーはチェルシーでは力不足だった。それは最初から明らかだった」とESPNは書いた。辛辣だが、多くのファンが共感した評価でもある。

選手たちはなぜ戦えなかったのか

ブライトン戦後のロシニアーの発言を、もう一度振り返る必要がある。

「欲望も、精神も、勇気もなかった」。監督がこれほど公開の場で自分の選手を批判するケースは珍しい。その裏には、ロッカールームの崩壊が透けて見える。監督就任からわずか3ヵ月で、選手と指揮官の間の信頼が失われていたとしたら、それはロシニアー個人の問題だけではない。

頻繁な監督交代は、選手の心理にも影響を与える。毎シーズン、あるいは毎半期ごとに戦術も哲学も変わる環境では、選手は「次の監督のためにプレーする」という意識になりかねない。プレミアリーグの舞台で、17億ユーロ相当の選手たちが「欲望も勇気もない」プレーをしたとすれば、それはチェルシーというクラブの空気そのものが問われている。

ロシニアー自身は解任後、「傷ついている。麻痺している。あのパフォーマンスはこのクラブを代表するものではなかった」とコメントした。そして翌日、彼は職を失った。

世界のファンが見ているチェルシー

r/chelseafc(チェルシーファンのRedditコミュニティ)では、解任発表後にこんな投稿が溢れた。「次の監督も同じことになる。オーナーが変わらない限り」。「オーナーが悪い、選手が悪い、全部悪い。何も変わらない」。海外のチェルシーファンの本音は、もはや「怒り」を通り越して「疲弊」に変わっている。

ライバルクラブのサポーターたちも冷静ではない。「ハルシティに解任されて、2年後にチェルシー監督になれる。チェルシーはすごいクラブだ」というr/Championshipの皮肉な投稿は、ベーリー体制への根本的な不信感を象徴している。笑えない冗談だ。

アブラモビッチ時代のチェルシーも監督交代は多かった。だが、あの時代のチェルシーには「チャンピオンズリーグ制覇」「プレミアリーグ制覇」という成果があった。金を使い、監督を替え、タイトルを獲る。それがアブラモビッチのやり方だった。ベーリー体制には、まだそれがない。

FAカップという最後の賭け

ロシニアー解任後、チェルシーはU-21監督のカラム・マクファーレンを暫定監督に据えた。そして4日後、ウェンブリーでFAカップ準決勝が待っている。

元主将ゲイリー・ケイヒルはESPNにこう語った。「チェルシーはFAカップを勝たなければ、このシーズンは救えない」。現実的な数字を見ると、リーグ戦でCL圏内4位との勝ち点差は7。残り試合を考えると、欧州チャンピオンズリーグへの復帰は現実的に厳しい。FAカップが、今季唯一のタイトルへの道だ。

前代未聞の状況で、就任4日目のウェンブリー。マクファーレンはチェルシーの監督として何試合指揮できるのか。ベーリー体制下のチェルシーでは、もはや誰も驚かない。

この病は治るのか

チェルシーの問題は、特定の監督の能力ではない。

トゥヘルはバイエルン・ミュンヘンでもCLを制した世界屈指の監督だ。ポチェッティーノはトッテナムとPSGを変えた名将だ。それが揃ってチェルシーで結果を出せなかった。これは「監督の選び方が悪い」という話ではなく、「チェルシーというクラブの組織設計そのものが壊れている」という話だ。

ベーリーが自分のやり方を変えない限り、次の監督も同じ道をたどる可能性が高い。17億ユーロは消え、監督は変わり、ファンは疲れていく。解任されたロシニアーはSNSでこう言った。「傷ついている」。しかし本当に傷ついているのは、何十年もこのクラブを愛し続けてきたチェルシーのサポーターたちかもしれない。

次の監督が誰であれ、問われるのは「監督の質」ではなく、「チェルシーというシステムが変わるかどうか」だ。その答えが出るまで、スタンフォード・ブリッジは揺れ続ける。

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