2026年6月13日(現地時間)、北中米ワールドカップのグループC第1節でブラジル代表とモロッコ代表が対戦し、1-1のドローに終わった。FIFAランキング一桁同士という今大会グループリーグ唯一の最注目カードは、スコアこそ同点決着だったが、内容面では両者の明確な差が浮き彫りになった90分間だった。
モロッコが描いた完璧な前半
序盤から試合の主導権を握ったのはモロッコだった。開始わずか6分からモロッコはブラジルのビルドアップにハイプレスをかけ続け、ブラジルの組み立てを機能不全に陥れた。この流れの中で21分、モロッコは自陣からのカウンターを仕掛ける。アマラベ・ディアスの縦パスをペナルティエリア内で受けたイスマエル・サイバリが、右足でループぎみに浮かせたシュートをゴールに流し込み先制に成功した。
ブラジルは出鼻を完全に挫かれ、しかも前半の途中でカゼミーロとロジェール・イバニェスがイエローカードの影響で交代を余儀なくされた。チームの守備の要2枚を失うという最悪の展開の中、アンチェロッティはドリンクタイムに修正を施し、チームを立て直そうとした。
ヴィニシウスが個の力で沈黙を破る
危機的状況を救ったのは、やはりこの男だった。同32分、MFブルーノ・ギマランイスからパスを引き出したヴィニシウス・ジュニオールが左サイドからペナルティエリアへ侵入。MFエル・アイナウイを鋭いカットインで置き去りにすると、右足を一閃してゴール右隅に突き刺し、同点に追いついた。
このゴールの価値は単純な同点弾以上のものだ。ブラジルの組織的攻撃が機能しない中、ヴィニシウスの個人技のみが局面を打開した事実は、チームとしての成熟度の低さを示すと同時に、彼一人への依存構造をあらわにした。新たな9番として期待されたイゴール・チアゴは不発に終わり、ヴィニシウス頼みの構図はアンチェロッティ体制の根本的な課題として残った。
後半の攻防 決定力を欠いたブラジル
後半、ブラジルは修正を加えてボールを持つ時間を増やしたが、決定的な場面をモノにできなかった。後半のモロッコのシュートはわずか2本にとどまるなど、数字上はブラジルが主導権を握ったように見えるが、ゴールを割ることはできなかった。
終盤にはハフィーニャらが果敢に仕掛ける場面もあったが、モロッコGKヤシン・ブヌ(ボノ)の牙城は崩せなかった。そのブヌは試合終盤に負傷し長時間の治療が必要となったため、後半のアディショナルタイムは10分という長い時間が設けられた。両チームともここで勝ち越しゴールを狙ったが、双方の守備陣が踏ん張り、試合は1-1で終了した。
アンチェロッティの率直な言葉に滲む課題
試合後、ブラジル代表監督のカルロ・アンチェロッティはFIFA公式を通じて「試合の入りがあまり良くなかったと思うし、その点は少し心配だ。デュエルに負ける場面が多かったし、ボールを失うことも多かった」と語り、内容面での苦戦を率直に認めた。ブラジルメディア『グローボ』には「(結果に)満足はしていない。改善に向けて努力しなければならないが、それは当然のことだ。モロッコは良いプレーを見せ、組織立った試合運びで、非常に手強い相手だった」とも語っている。
一方でアンチェロッティは「自信を失ってはならない。初戦で完璧なはずがない。今は次の試合に集中するつもりだ」と前向きさも示した。W杯史上初の外国人監督として就任したアンチェロッティにとって、今大会は自身のキャリア初の世界最大の舞台だ。最多5度の優勝を誇るブラジルのファンからの期待は絶大だが、ブラジルメディアはアンチェロッティの采配や試合運びに疑問を投げかけ、国内外で厳しい評価が広がっている。セルジオ越後氏も「ブラジルは明らかに落ち目…優勝は厳しい」と辛口評価を下した。いかに素早くチームを修正できるかが、グループ突破への鍵となる。
モロッコが証明した「アフリカ最強」の実力
一方のモロッコは、引き分けという結果以上の何かを見せた。前回カタール大会でアフリカ勢初のベスト4という歴史を塗り替えたチームは、2年の歳月でさらに成熟していた。組織的なハイプレスとカウンター攻撃は世界トップレベルのブラジルを前半完全に封じ込め、先制点まで奪ってみせた。
アシュラフ・ハキミを筆頭とした個のクオリティも高く、ドローという結果でも内容的には堂々たる90分だった。「内容的にはモロッコが力の差を見せつけた」との見方を複数メディアが伝えており、今大会の「最も侮れない伏兵」から「真の優勝候補」へと格上げされたと見る識者も少なくない。次節のスコットランド戦で勝利すれば、早期突破の視野にも入ってくる。
グループCの行方と日本代表への意味
グループCでは、ブラジルとモロッコが勝ち点1ずつで並んだ。次節はブラジルがハイチ、モロッコはスコットランドとそれぞれ対戦する。両チームとも格下との対戦でリズムを取り戻せるかが焦点だ。
このグループの最終順位次第では、決勝トーナメントで日本代表との対戦が現実になる可能性もある。日本のファンからも「くじ運いかれてる」と戦々恐々とした声が上がっているほどだ。今回の試合は日本の対策立案にも重要な示唆を与えている。ブラジルのビルドアップはハイプレスに弱くヴィニシウスへの依存が顕著であること、モロッコは縦に速い攻撃が有効で守備ブロックが固いという特徴が、この一戦で鮮明に映し出された。グループリーグの段階からこれほど明確に長所と短所が見えたことは、対戦の可能性を持つ日本にとって貴重な情報となるはずだ。

