2度、相手にゴールを奪われた。しかし最終スコアは1-0。それが町田ゼルビアの準決勝だった。
4月21日、サウジアラビアのジェッダで行われたACLエリート準決勝。シャバブ・アルアハリは後半に猛攻を仕掛け、2度ネットを揺らした。だがいずれもVARによって取り消され、町田は劇的な1-0勝利でクラブ史上初の決勝進出を決めた。
ノックアウトラウンド3試合、失点ゼロ。ラウンド16でJリーグ勢の江原FCを1-0で下し、準々決勝でサウジアラビア王者アルイテハドを1-0で撃破し、準決勝でUAE王者を1-0で退けた。3試合すべてがウノゼロ勝利。この事実が、単なる幸運ではなく、哲学の産物であることを雄弁に語っている。
黒田剛が持ち込んだ「守れれば勝てる」という信念
黒田剛監督が町田の指揮を執り始めたのは、Jリーグのプロクラブとしては異色の経歴を持つ人物だった。それまでのキャリアのほぼすべてを、青森山田高校の監督として過ごした。全国高校サッカー選手権を複数回制した指揮官が、プロの世界に飛び込んできたのだ。
「結局、勝つ=守れることだ」。この言葉は黒田監督が2023年末のインタビューで語ったものだが、青森山田時代から一貫して変わらないサッカー哲学の核心を表している。高校年代でも、プロの舞台でも、守備組織の構築こそがすべての出発点という考え方だ。
この哲学が、J1初昇格・J1初参戦のクラブをわずか数年でアジアの決勝まで導いた。あなたは高校サッカーの指導理念がアジア最高峰の舞台で通用すると思っていただろうか?
ハイプレス・ミドル・ローブロックの三重構造
では、町田の守備は具体的にどう機能しているのか。戦術的な観点から見ると、3段階の守備ブロックを状況に応じて切り替える「適応型守備」が特徴だ。
まず相手のビルドアップに対しては積極的にハイプレスをかけ、高い位置でボールを奪おうとする。はめ込めなかった場合は4-4-2のミドルブロックに移行し、ハーフライン付近でコンパクトな陣形を維持しながら縦パスのコースを消してサイドにボールを誘導する。そして相手が自陣深くに侵入してきた際には、ゴール前に4-4-2のローブロックを形成し、シュートブロックに全員が走り込む。
ライトファン向けに一言で表現するなら「引いて守るのではなく、どの位置でも組織として守る」サッカーだ。個人の守備力ではなく、11人が一体となって動く設計図が、サウジやUAEのスター軍団に通用した理由である。
谷晃生、最後の砦の存在感
守備組織の完成度を語る上で、GK谷晃生の存在は外せない。FotMobのスタッツによれば、今シーズン通算でセーブ数65、セーブ率70.7%という数字を残している。クリーンシートの数でも今大会のGKランキング上位に位置している。
準決勝でも、アルアハリの猛攻を受け続けた後半、谷は危険なシーンで冷静な判断を続けた。フィールドプレーヤーが組織ブロックで対応し、それでも抜けてきたシュートを谷が仕留める。この二重の守備構造があるからこそ、町田は3試合連続で無失点を維持できた。
2003年生まれの22歳(25歳)。まだ若いGKがアジアの大舞台で経験を積んでいることも、Jリーグファンとして誇らしい事実だ。
VARに「救われた」は本当に正しい表現か
試合後、アルアハリ監督は激怒した。「主審は一度プレーを認めるホイッスルを吹いた。それにもかかわらずゴールが取り消された」という趣旨の発言で審判団を強烈に批判した。
実際に何が起きたか。後半アディショナルタイム1分、アルアハリはスローインからクイックリスタートでゴールを奪ったように見えた。しかしVARが介入し、オンフィールドレビューの結果、町田が交代手続き中だったためにリスタートが早かったと判定。ゴールは取り消された。さらに別の場面でも1度VAR介入があり、計2度のゴール取り消しが起きた。
「VARに救われた」という表現は正確ではない。より正確に言えば、「ルールに基づく正当な判定が町田を守った」だ。元W杯主審も「ゴールは認められない」と判定の正しさを明言している。準々決勝でも、アルイテハドのコンセイソン監督が「審判が今夜の相手で、日本のチームではなかった」と批判したが、その試合も同様に元審判団が判定を支持した。
2試合連続で相手監督が判定を批判した。しかしその2試合で、町田は確実にクリーンシートを守り切った。問いを立て直してみよう。町田が「守れていた」からこそ、相手が焦ってルールの境界線を踏み越えたとは考えられないか?
アジアが驚いた「J1クラブの守備哲学」
海外メディアの反応も注目に値する。ESPNは「Machida continue to aim for triumph in debut tournament」と、ACLエリート初参戦でのファイナル挑戦を驚きと共に伝えた。SNE Sportsは準々決勝の翌日、「disciplined and resilient performance」と評し、規律と粘り強さを称えた。
スター外国籍選手を揃えたアルイテハド、UAEの王者アルアハリを連続撃破したJ1クラブ。外から見れば「番狂わせの連続」だが、黒田監督の哲学から見れば「必然の積み上げ」だ。走力と球際の強度、組織的な守備ブロック、縦に速い攻撃、明確なルールに基づいたマネジメント——これはJ1どころか高校サッカーの指導現場で何十年も磨かれてきた技術体系である。
守備哲学がアジアに証明したもの
ブランドと資金力の競争になりがちなアジア・チャンピオンズリーグで、町田は異質な存在感を放っている。移籍市場でスターを集めたわけでも、強大な資本の支援で勝ち上がったわけでもない。
「守れれば勝てる」という信念を、高校サッカーの現場から持ち込んだ一人の指揮官が、日本サッカーの歴史に刻もうとしている。ノックアウトステージ3試合・失点ゼロという数字は、そのサッカー哲学がアジア最高峰の舞台で証明された確かな証拠だ。
2度のゴールを消された夜、アルアハリ監督は審判団を批判した。しかし本当の意味で彼らの前に立ちはだかったのは、ルールでも、審判でもなく、黒田剛が作り上げた守備の哲学だったのではないだろうか。


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