塩貝健人、W杯メンバー選出の10日後に降格決定。移籍はどうなる?

ドイツ

5月15日、森保一監督がW杯北中米大会(6月11日開幕)の26名メンバーを発表した。そこに「塩貝健人(ヴォルフスブルク)」の名前があった。3月の初招集から2ヶ月弱。21歳のFWが、最短に近い形で世界最大の舞台への切符を手にした瞬間だった。

その10日後、クラブの運命が決まった。

5月25日、ヴォルフスブルクはブンデスリーガ入れ替え戦第2戦でパーダーボルンに延長2-1で敗れ、2戦合計でも及ばず1部残留を逃した。1997年の昇格以来29年間守り続けたブンデスリーガ1部の座が、ついに終わった。降格が確定した瞬間、塩貝健人のクラブとW杯での立場は、正反対のものになっていた。

29年ぶり降格、何が起きたのか

試合は序盤から波乱の展開だった。ヴォルフスブルクは退場者を出し、10人での戦いを強いられる。なんとか延長に持ち込んだが、100分にクルダのゴールが決まり万事休す。ホームのパーダーボルンサポーターが歓喜に沸く一方、ヴォルフスブルクの選手たちはピッチにうずくまった。

2009年にブンデスリーガを制覇し、2015年にはDFBポカールを初制覇。2016年にはCL準々決勝でレアル・マドリードを相手にホーム第1戦を2-0で制しながら、第2戦で0-3と逆転負けを喫した。あの悔しさから10年、VWの企業城下町を本拠地とするクラブは1部から姿を消すことになった。ESPNは今季の惨状を「1997年の昇格直後以来、最悪のシーズン」と評した。

今季は3人目の監督として内部昇格のバウアーが就任するまでに、ハーゼンヒュットル、シモニスと2度の監督交代が起きた。スポーツディレクターが多額の資金を投じて補強を続けたものの、チームとしての結束力を取り戻せなかった。バウアー監督自身が「クラブの雰囲気と文化がブンデスリーガに相応しくない」と公言するほど、内部崩壊は深刻だった。

なお、海外サッカーファンの間ではVWグループに支えられた資本背景を持つヴォルフスブルクへの批判的な反応も一部で見られた。フォルクスワーゲンの資本による50+1ルール例外クラブとして、古くから他クラブサポーターの感情的な視線を受けてきた側面がある。Redditの降格スレッドでは「29年連続のブンデスリーガ在籍が終わった。これがどれだけ大きな出来事かわかっていない人が多い」というコメントが上位に並んだ。あくまで一部のファン反応ではあるが、この降格への世界的な注目度の高さを示してもいる。

塩貝、ブンデスリーガ初挑戦の現実

1月の移籍後、塩貝は12試合に出場し1ゴール0アシスト。数字だけ見れば物足りない印象だが、NEC時代と同じく途中出場が大半だった点は考慮が必要だ。ブンデスリーガ公式の記録では、スプリント数123回、最高速度34.65km/hと、フィジカル面での強さはデータにも現れている。

NEC時代の今季は公式戦14試合9ゴールという驚異的な決定力を持ち込んだが、ブンデスリーガの強度では途中出場からの役割に落ち着いた形だった。21歳が初めて挑んだ5大リーグ、しかも降格争いのただ中という環境を考えれば、「経験値を積んだシーズン」と評するのが妥当だろう。

移籍時、ヴォルフスブルクのスポーツディレクターは「スピード、インテンシティ、そして強烈なプレッシング」に期待を語った。その期待に数字では応えられなかった部分もあるが、Jリーグの内定を辞退してNECへ直行した2年前と同様、塩貝は「環境の難しさ」を自ら選んできた選手でもある。

W杯と、その先にある移籍の行方

焦点は二つある。6月のW杯でのパフォーマンスと、その後の移籍の行方だ。

まず契約面の整理から入る。塩貝のヴォルフスブルクとの契約は2030年6月末まで残っている。ただし、クラブが2部降格した場合に備えた条項が契約内に設けられているかどうかは、現時点で公式情報はない。一方でヴォルフスブルク側の財政的な事情として、今季の補強費超過などで推定マイナス2000万ユーロ(約34億円)規模の移籍収支を抱えているという指摘がある。降格後の収入減少も重なれば、保有資産の売却に動く可能性は十分にある。

気になるのは、塩貝の過去のキャリアにある「幻の移籍」だ。2025年夏、塩貝はNECからオーストリアのRBザルツブルクへの移籍が合意直前まで進んでいた。しかし、メディカルチェックで負傷が判明したとしてNEC側が発表、移籍は破談に終わった。塩貝本人はその後「移籍は理解できない理由で頓挫した。日本でもメディカルチェックを受けたが問題はなかった」と語っており、実態は不透明なままだ。この経緯があったことで、塩貝の市場価値は一時的に不透明視された面もあった。結果的に半年後にヴォルフスブルクが契約解除金900万〜1000万ユーロ(約16〜18億円)を満額支払って獲得したことで、市場は「本物の逸材」と再評価した格好だ。

NECのテクニカルディレクター、カルロス・アールベルスはこう語っている。「20以上のビッグクラブに行く可能性があった。我々は通常、契約解除条項は設けないが、今回はそうするしかなかった。そうしなければ、彼は他のどこかへ行っていただろう」。育成費だけで獲得した選手が1000万ユーロの対価をもたらした事実が、塩貝の市場評価の実力を物語っている。

現時点で塩貝への具体的な移籍オファーの報道は確認されていない。ただし、W杯という舞台の持つ影響力は計り知れない。2026年ワールドカップで活躍すれば、観客は36億人を超えると言われる大会だ。スカウト陣が注目する中でゴールを決め、チームに貢献する姿を見せれば、その翌日から市場評価は跳ね上がる。逆に出場機会が限られれば、移籍交渉における塩貝側の立場も変わってくる。塩貝にとってW杯は、ヴォルフスブルクの「降格後の去就」という問題を解決する最大のカードになりうる。これはあくまでも推測であり、現時点で具体的な移籍先情報があるわけではない点は強調しておく。

W杯での活躍は、選手の市場価値を一晩で変える力を持つ。三笘薫・南野拓実らが怪我でメンバー外となる中、森保監督は塩貝を「今と未来への期待を込めて」選んだと語った。26名の中で最もフレッシュな存在の一人として、何かやってくれそうという期待感がある。降格クラブの所属選手という逆境が、かえって塩貝のモチベーションに火をつけるとしたら。慶大1年生の冬に横浜F・マリノスへの内定を決め、翌年の夏にそれを辞退してNECへ渡った選手は、いつも「正解のない選択」を自ら取りに行ってきた。21歳の夏に、次の答えが出る。

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