またアンフィールドにブーイングが響いた。
リヴァプールとチェルシーの1-1のドローが終わったアンフィールドで起きたこの光景は、今季のリヴァプールが抱える深い矛盾を映し出していた。
試合の流れ:最高の出だし、静かな失速
5月9日、アンフィールド。試合は幸先よく始まった。17歳のリオ・ングモハがチェルシー守備陣の間をすり抜けてアシストを届け、ライアン・フラーフェンベルフがそれを左足で叩き込んで先制。時計は5分を指していた 。
だが、先制後のリヴァプールは別チームだった。ボールを握りながら、決定的な崩しを作れない。特に顕著だったのがコーディ・ガクポの不在感だ。Goal.comの選手採点では「消えていた」と評され 、This Is Anfieldのレポートも「幽霊のようなパフォーマンス」と手厳しかった 。ガクポは試合前に「もっとよくしなければ」と自ら言葉にしていたが 、その反省をピッチで示すことはできなかった。
前半のアディショナルタイム、エンソ・フェルナンデスが蹴った低いFKに対し、ガクポは押されマークを外してしまった。ウェスレー・フォファナが体を入れてボールに触れそうだったがボールはそのままネットへ吸い込まれ、フェルナンデスの同点ゴール。リヴァプールの失点には、今季繰り返されてきたセットプレー守備の課題がまたも顔を出した 。
後半もリヴァプールはチェルシーを押し込んだが、ゴールをこじ開けられずそのまま1-1で終了。主力が揃いながら苦境のチェルシーを仕留められなかった事実が、スタンドの苛立ちをさらに高めた。
ングモハを下げた瞬間、空気が変わった
後半、スロット監督がングモハをアレクサンダー・イサクに交代させた瞬間、アンフィールドの空気が一変した。スタンドから一斉にブーイングが降り注ぐ。コーディ・ガクポがピッチに残っているにもかかわらず、アシストを決めた17歳が先に下げられたことへの怒りだった 。ングモハはこの試合、ペナルティエリア内でのタッチはわずか1回。それでも先制点を演出し、スタンドを沸かせた選手だった 。
「私が監督だ」スロットの静かな反論
試合後の会見でスロットは、淡々とこう語った。「彼は筋肉に問題を抱えていた。続けられるか確認したところ、確信が持てないと答えた」 。さらに「人々はすべてを知っているわけではない。私が監督だ」と静かに付け加えた 。
このコメントは報道陣の質問への答えだったが、同時にアンフィールドのブーイングへの返答でもあった。スロットは表面上では感情的にならなかった。ただ事実を述べた。その落ち着きがかえって、内側にある感情を炙り出しており、チームとファンの間に生まれている静かな亀裂を際立たせた。
フラーフェンベルフの「値しない」発言
得点を決めたフラーフェンベルフは、試合後にカメラの前でこう言い切った。「正直に言う。私たちはこの反応に値しないと思う。ファンは90分間、チームの後押しをするべきだ。後半、彼らが声を上げてくれたとき、私たちはチェルシーに効果的にプレスをかけられた。次の試合では同じことが起きないことを願っている」 。
選手がファンに対してこれだけ直接的な苦言を呈するのは、珍しいことだ。そしてこれが今季初めてではない、というところにこそ、本当の問題がある。
今季3度目のブーイング
1月のバーンリー戦で1-1のドロー。アンフィールドにブーイングが響いた。当時のスロットは「ファンの不満は理解できる」と受け入れる姿勢を見せた 。3月のトッテナム戦でもドロー。今度はドミニク・ソボスライが「もっと後押しが必要だ」とファンに呼びかけた 。同じ頃、ファン・ダイクも「本当に不満を持ったファンベース。扱うのは本当に難しくなる」と語っていた 。
そして5月のチェルシー戦で、フラーフェンベルフが「値しない」と言い切った。バーンリー→トッテナム→チェルシーと、今季3度目のブーイングである。これはもはや単発の感情ではない。
スロット解任を求める声と、FSGの立場
アンフィールドの怒りは、ブーイングだけにとどまらない。一部のファンはすでに「スロット解任」を求めている。今季リヴァプールは17敗を喫し 、昨季の圧倒的なプレミア制覇からわずか1年でCL圏争いを強いられている現実がある。
デイリー・メールのマージーサイド番担当記者ルイス・スティールは自身のYouTubeチャンネルでこう語った。「スロットは、自分がこのチームを来季以降も率いるにふさわしい人間だということを証明しなければならない。残り試合で、ファンに信頼を取り戻すための何かを見せる必要がある」 。
しかしオーナーのFSG(フェンウェイ・スポーツ・グループ)の立場は明確だ。FSGはスロットの続投を支持している。その理由として「就任1年目にプレミアリーグ制覇を成し遂げた監督が1年で消えたわけではない」「今季は予期せぬ困難が重なった」という見方が内部にある 。ディオゴ・ジョッタのプレシーズン中の死去というクラブ史上かつてない悲劇、主力の大量流出と補強のミスマッチ。FSGはそうした背景を踏まえ、スロットに3年目のシーズンを与える方針だ。
スロット自身も4月に「FSGからの完全なサポートを受けている」と公言している 。FSGのシニアメンバーに加え、スポーティング・ディレクターのリチャード・ヒューズ、フットボールCEOのマイケル・エドワーズもスロット続投を支持しているという 。フロントとファンの間に生まれた温度差は、今後のシーズンへの向き合い方にも影響してくるだろう。
なぜアンフィールドはこんなにも苛立っているのか
この試合を終えた時点でリヴァプールは4位・59ポイント。5位アストンヴィラとはわずか1ポイント差 。残り2試合(アストンヴィラ戦・最終節)でCL圏を落とせば、昨季のプレミア制覇から1年でチャンピオンズリーグを失うことになる。「なぜ勝てないのか」という疑問が、スタジアムの空気を確実に変えている。ファンが怒るのは、チームに力があると信じているからだ。ただ、その怒りがピッチに向かうとき、選手たちは背中を押されるのではなく、重荷を背負わされる。
残り2試合、ファンとチームは向き合えるか
フラーフェンベルフはこうも言った。「ファンが後押しした後半、私たちはチェルシーにプレスをかけられた」。この言葉は責任転嫁ではない。「一緒に戦えれば変わる」という正直なメッセージだ。
批判できるほど愛している。アンフィールドのブーイングはその裏返しであり、弱いチームには起きないことだ。スロット続投の方針を示すフロントと、解任を求める一部ファンの間の溝が埋まるかどうかも含め、残り2試合でリヴァプールというクラブが問われている。アンフィールドの本当の力は、そこに決まっている。
