負傷のエムバペW杯出場は大丈夫?フランス代表初戦まであと53日

スペイン

「100%回復した」。エムバペがそう言い切ったのは、3月23日のことだ。AS紙のインタビューで、彼は左膝の完治を宣言し、「W杯前の残り全試合に出場する」と力強く語った。だが現実は残酷だった。

4月24日(現地時間)、ラ・リーガ第32節のベティス対レアル・マドリード。試合は1-1で迎えた81分、エムバペは自らベンチに交代を要求した。ピッチを離れる際、左太ももを気にするような仕草。翌日、複数の欧州メディアが報じた診断名は「左ハムストリングの筋肉過負荷(muscle overload)」。重症ではないとみられているが、精密検査の結果はまだ出ていない。

フランスの初戦、セネガル戦まであと53日。エムバペを巡る「W杯カウントダウン」は、また新たなフェーズに入った。

今季4度目の左脚トラブル

エムバペの今シーズンを振り返ると、ある「法則」が見えてくる。故障は、常に左脚に集中している。

12月には左膝周辺に炎症が発生。1月から2月にかけて左膝外側靭帯の捻挫が悪化し、リーグ戦4試合を欠場した。3月に「完治」を宣言して戦列に復帰したかと思えば、4月のベティス戦で今度は左ハムストリングを痛めた。1年にも満たない期間で、同じ脚に4度のアラートが鳴ったことになる。

スポーツ医学的に見れば、この「左脚への集中」は偶然ではない可能性がある。膝の靭帯損傷後、その周辺の筋群、特にハムストリングは補償的な負荷を受けやすい。膝を保護しようとする無意識の動作が、今度は別の筋肉に負担をかける。エムバペのような急加速を多用するアタッカーは、この「負傷の連鎖」に特に陥りやすいとされている。

一度完治したはずの足が、また悲鳴を上げた。その構造は、思っている以上に深刻かもしれない。

マドリードの医師団に何が起きたか

今シーズンのエムバペの負傷を語る上で、どうしても外せない「事件」がある。

12月の最初の故障後、レアル・マドリードのメディカルスタッフが実施したMRIをめぐって、衝撃的な疑惑が浮上した。複数のスペイン・フランスメディアの報道によると、検査が「負傷していない方の足」に対して行われた可能性があるというのだ。結果として異常なしと判断されたエムバペは、損傷が残ったままの状態で3試合にフル出場。その全試合でゴールを決めていた。

この疑惑はカマビンガにも波及した。L’Équipeによれば、12月3日のビルバオ戦で左足首を負傷したカマビンガも、右足首のMRIを撮られていた可能性があると報じられた。その4日後、彼はベンチ入りし、その後2週間の離脱となった。

ただし、エムバペ本人は3月24日の記者会見でこの「逆の足のMRI」説を否定している。「誤った膝を検査したという情報は事実ではない。間接的に自分に責任があるかもしれないが」と述べた。真相は藪の中だが、疑惑が拭えない状況が続いているのは事実だ。

その後、エムバペはレアル・マドリードのメディカルスタッフではなく、PSG時代から信頼関係のある個人医師、クリストフ・ボードーに治療を委ねた(WorldSoccerTalk報道、確度:中)。クラブの医療体制との間に深刻な亀裂が入ったことは、もはや否定しようのない状況だ。Yahoo Sportsは「マドリードのエムバペ管理に批判殺到」と見出しを打ち、レアルの選手たちがクラブのメディカルスタッフへの不信感を長年抱えてきたことを伝えている。

クラブと代表、2つの「正義」のぶつかり合い

ここで問題の構造が浮かび上がってくる。クラブとしてのレアル・マドリードと、フランス代表という2つの組織が、それぞれ異なる「正義」を持っている。

レアルにとって、残り5試合で8ポイント差のバルセロナを逆転するには、エムバペに毎試合出てもらう必要があった。優勝争いが事実上終わった今も、今季のシーズンを締めくくるための「実績」が求められる。一方のフランスにとっては、6月16日のセネガル戦に万全の状態でエムバペを送り出すことが最優先だ。

デシャン監督は3月24日のブラジル戦前に「エムバペはスタメン起用できる状態だ」と語った。だがその翌月、彼はまた倒れた。WorldSoccerTalkが3月時点で既に指摘していたように「W杯前の最終章でのエムバペの負傷が、フランスにとって最大のリスク」という警告は現実になりつつある。

この「クラブ対代表」の綱引きは、欧州サッカーが抱える永遠の構造問題だ。エムバペという世界最高峰の選手が当事者になることで、今季はその矛盾が極限まで可視化された。

2022年の既視感、フランスが繰り返す悲劇

「また同じだ」。フランスサポーターの多くは今、4年前の記憶を呼び起こしているはずだ。

2022年カタールW杯の直前、フランスはベンゼマを失った。右大腿四頭筋の損傷で出場辞退。その年、バロンドールを受賞していた男が、最高の舞台に立てなかった。フランスは決勝まで進んだが、PK戦でアルゼンチンに敗れた。

2018年ロシアW杯は優勝した。だがその後、ポグバは引退の前に常に怪我と戦い続けた。グリーズマンは今年、代表引退を表明している。フランスはエースを失い続けながら、それでも強い。そして今、またエースの体に不安が生まれた。

Redditのr/soccerでは「またフランスの恒例行事が始まった」「でもフランスはベンゼマなしで決勝まで行ったんだぞ」という声が入り混じっている。海外のコアファンの目線には、絶望よりも「フランスならまたやってのけるかもしれない」という奇妙な楽観がある。

53日間の現実的シナリオ

では、医学的に「間に合う」のか。

左ハムストリングの筋肉過負荷(軽症)であれば、一般的な回復期間は2〜4週間とされる。4月24日から逆算すると、5月中旬には練習復帰が可能な計算だ。フランスのW杯開幕(6月11日)まで約7週間、初戦(6月16日)まで53日ある。数字だけを見れば「間に合う」。

だが問題は、エムバペが今季で4度目の左脚トラブルを抱えているという事実だ。軽症であっても、慢性的に繰り返す負傷はリスクが高まる。L’Équipeの報道では、2月時点でエムバペは「本来の60〜70%のパフォーマンス」しか出せていなかったとされる。3月に完治宣言し、4月にまた故障した。「完治」の基準自体に疑問符がつく。

レアル・マドリードの残り試合は5試合。クラブがエムバペをどこまで使うか、あるいは意図的にリスク管理するかが、直接W杯出場の可否に影響する。

フランスにとってエムバペは”必要不可欠”か

ここで冷静な問いを立てる必要がある。もしエムバペが万全でないままW杯を迎えたとして、フランスはどこまで戦えるのか。

グリーズマンが引退し、エムバペはフランスのキャプテン兼エースだ。The Athleticは4月の特集記事で「エムバペはW杯のキャプテンとして、ピッチ外でも本物のリーダーになれるかどうかを問われている」と書いた。スコアラーとしてだけでなく、チームを束ねる存在としての期待も背負っている。

控えに目を向けると、マルカス・テュラム、ランダル・コロ・ムアニ、オーレリアン・チュアメニら実力者は揃っている。エムバペなしでもグループリーグは突破できるかもしれない。だが決勝トーナメントで真の頂点を狙うには、やはり彼の爆発力が必要になる局面がある。

2022年大会でのエムバペはバロンドール候補に挙がるほどの活躍を見せ、フランスを決勝に導いた。それでも優勝を逃した。今度こそ、という思いが彼の中にあるのは間違いない。

53日後、彼は何のためにピッチに立つか

エムバペにとって、W杯は単なるトーナメントではない。2018年ロシア大会で優勝した時、彼は19歳だった。あの瞬間から8年、彼はフランスサッカーの「顔」として、時に孤独に、時に重責を背負いながら走り続けてきた。今季の怪我の連鎖は、その重さの証左でもある。

「クラブの医師ではなく、自分が信頼する医師に治療してもらう」という判断は、エムバペが自分の体と向き合い、W杯という目標から逆算して下した選択だ。60%の状態でレアルのために走るより、100%の状態でフランスのために走ることを選んだ。それが正しい選択かどうかは、6月16日のセネガル戦のキックオフの笛が鳴らなければわからない。

53日後、エムバペがニュージャージーのピッチに立った時、今シーズン何度も折れかけた左脚がどんな状態にあるか。その答えは、53日間という時間の中にある。

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