北中米W杯グループF初戦のオランダ戦(6月14日、ダラス)で左膝を負傷した久保建英(25歳、レアル・ソシエダード)の診断結果が、6月16日時点でいまだ出ていない。三笘薫・南野拓実・守田英正という主力3名がすでに選外となっているなかで、もしエースまでも大会を離脱することになれば、森保ジャパンの戦い方は根本から問い直される。今回は久保の負傷状況を整理したうえで、現在の代表26名の実情と、万が一の場合の追加招集候補を考察する。
車椅子退場から48時間——久保の負傷状況
後半26分、久保はDFダンフリースの激しいチャージを受けて左膝付近を痛め、倒れ込んだ。その後、ピッチ外に出て少し走ったが、状態確認後に自らベンチへバツ印を出し途中交代。試合後はメディカルスタッフの判断で車椅子でスタジアムを退出した。
一夜明けた15日、久保は米テネシー州ナッシュビルの病院で検査を受けた。しかし日本協会関係者は「診断結果はまだ」と述べており、16日時点でも公式発表はない。主将代行の板倉滉(アヤックス)は「昨日より膝の状態が落ち着いているという話をした。普通に歩いていた。軽傷の可能性もあると思う」と明かしたが、協会側は「スムーズに歩ける状態ではない」として取材対応には応じていない。森保一監督は「軽症であることを願っている」とコメントするにとどまった。
専門家や海外メディアの見方はより厳しい。米国の負傷分析サイト「Physio Scout」は、ダンフリースとの接触において「膝の外側に直接衝撃が加わり、膝が内側に押し込まれる形となったため、内側側副靭帯(MCL)損傷の恐れがある」と分析した。MCLの損傷はグレードによって予後が大きく異なる。グレード1(軽度の部分損傷)であれば数日〜2週間での復帰が見込め、第3戦のコロンビア戦や決勝トーナメント出場も十分視野に入る。一方でグレード2(部分断裂)なら復帰まで4〜6週間を要し、今大会の全日程を欠場することになる。別の米国サイトも「少なくとも3週間は欠場」と予測。久保の所属クラブがあるスペイン・バスク州の地元メディア「ノーティシャスドギプスコア」は「今大会残りの出場が危ぶまれるほどの重傷」と報じている。
久保本人は試合後のインスタグラムに「まだまだこっから」と投稿し、前向きな姿勢を見せた。診断結果が出るまで断定はできないが、楽観的観測と悲観的分析の両シナリオが同時に存在している状況だ。
現在の26名——「いない顔ぶれ」が示す構造的な事情
今回の26名を改めて確認しておく。GKは鈴木彩艶(パルマ)・大迫敬介(広島)・早川友基(鹿島)の3人。DFは菅原由勢(ヴェルダー・ブレーメン)・長友佑都(FC東京)・板倉滉(アヤックス)・冨安健洋(アヤックス)・伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン)・谷口彰悟(シント=トロイデンVV)・渡辺剛(フェイエノールト)・瀬古歩夢(ル・アーブル)・鈴木淳之介(FCコペンハーゲン)の9名。MF/FWは久保建英(ソシエダード)・鎌田大地(クリスタル・パレス)・田中碧(リーズ)・佐野海舟(マインツ)・堂安律(フランクフルト)・伊東純也(ゲンク)・中村敬斗(スタッド・ランス)・鈴木唯人(フライブルク)・前田大然(セルティック)・旗手怜央(セルティック)・上田綺世(フェイエノールト)・小川航基(NECナイメヘン)・塩貝健人(ヴォルフスブルク)・後藤啓介(シント=トロイデンVV)・町野修斗(ボルシアMG)の15名だ。
そもそも今大会の日本代表は、出発前から主力の離脱が相次いでいた。ブライトンのMF三笘薫は足首の怪我で選外。ASモナコのFW南野拓実は膝の十字靭帯断裂により長期離脱中。スポルティングCPのMF守田英正も選外となった。さらに大会直前にはリバプールのMF遠藤航が負傷離脱し、代わってボルシアMGのFW町野修斗が追加招集されている。すでに4人の主力クラスが欠けたうえでの、久保の負傷という事態だ。
久保の「役割」はいかに特殊か
久保がなぜ代えの効かない選手なのか。それは単純な「攻撃力」の問題ではなく、「構造を動かす力」にある。久保はハーフスペースへの侵入、ドリブルによる局面打開、狭いスペースでのワンタッチコンビネーションを高い精度でこなし、相手守備ブロックの構造そのものを変形させる。オランダ戦でも、中村敬斗の同点弾(1-1)を生んだのは久保の絶妙なパスだった。
現在の26名の中で、同様の役割を担える選手はいない。鎌田大地はゲームメーカーとして機能するが、ドリブルによる縦への推進力は久保とは異なる。中村敬斗は左からの突破に強みがあるが、右シャドー的な役割は本来の持ち場ではない。堂安律はよりボールを持ってシュートまで持ち込む型の選手だ。鈴木唯人(フライブルク)は運動量と繋ぎの質があり久保の近いポジションをこなせるが、創造性という点では差がある。
FIFA規定——大会中の追加招集のルール
大会中の選手入れ替えには、FIFAの厳格なルールがある。「深刻なけがまたは病気」に該当する場合に限り、代替選手の招集が認められる。ただしこの入れ替えは「本大会初戦のキックオフ24時間前まで」が期限とされており、グループステージ初戦(6月14日のオランダ戦)はすでに終了している。つまり現時点では、通常の規定では大会中の追加招集は不可能だ。
ただし、大会開幕後の深刻な負傷に対しては、FIFA医療委員会が個別に判断する例外措置が適用されたケースも過去に存在する。日本協会とFIFAの協議次第という部分もあり、公式診断の内容が今後の選択肢を大きく左右する。いずれにせよ、追加招集が実現するとすれば「予備登録リスト」に入っていた選手が対象となる。
追加招集候補①——守田英正が「最有力」の理由
追加招集候補として最も現実的なのが、スポルティングCPの守田英正だ。守田は今大会のメンバーに選ばれなかったが、それは怪我によるものではなく選考上の判断とみられている。今季はポルトガルリーグを制覇し、CLベスト8進出にも貢献した。コンディション面の問題はなく、すぐに実戦投入できる状態にある可能性が高い。
守田のチームへの貢献は久保とは性質が異なる。守備時の危機察知、ボール奪取後の素早いテンポアップ、攻撃の「繋ぎ役」としての精度。田中碧とのダブルボランチ、あるいは鎌田との共存など複数の組み合わせが機能し、チームとしての安定性を大きく底上げできる。久保の「創造力」の直接代替にはならないが、「久保不在でも試合を組み立てられる」体制を構築するうえで守田ほど適した選手はいない。
追加招集候補②——三笘薫「奇跡の復帰」はあるか
もし奇跡的な復帰があるとすれば、三笘薫(ブライトン)の名前を挙げないわけにはいかない。足首の怪我で選外となったが、6月時点での回復状況によっては大会途中参加のシナリオも完全には排除できない。
久保が担っていた「個のドリブルによる局面打開」という要素において、三笘は現メンバー外の選手の中で最も機能的に近い。右利きの久保が右サイドを主戦場とするのに対し、三笘は左サイドの突破が武器だが、相手守備に対して「1人で状況を変える力」という本質的な価値は共通している。実現性はやや低いが、実現した場合のインパクトは最も大きい候補だ。久保自身もメンバー発表時に「三笘は大事な選手。すごく残念」と語っており、両者の関係性からもチームへの影響力は疑いない。
その他の候補——古橋亨梧、旗手怜央、佐藤龍之介
古橋亨梧(スタッド・レンヌ)は、久保の「創造役」の代替にはならないが、FW層の補強として機能する。今季のリーグ得点数も安定しており、町野修斗との選択肢が増えることでFWの競争が生まれる点は魅力だ。
佐藤龍之介(FC東京)は、今年1月の久保のハムストリング負傷時にも代替候補として名前が挙がっていたアタッカーだ。ドリブルと速さという資質は久保に近く、若い世代の代表格として注目されている。ただし大舞台でのW杯出場経験がなく、即戦力としての見極めは難しい。
旗手怜央(セルティック)はすでに26名の一員であり、追加招集対象ではないが、久保不在の状況で期待される選手だ。右も左もトップ下もこなせるポジション可変性の高さは、久保が作っていたハーフスペースのスペースを違う選手・形で埋めるうえで重要な意味を持つ。
「久保不在」でグループ突破は可能か
客観的に見て、久保がいなくても日本代表はグループ突破を狙える戦力を持っている。第2戦のチュニジア戦(6月21日、モンテレイ)は格下相手であり、中村敬斗・堂安律・鎌田の連係で攻略する形は十分に描ける。本田圭佑は久保不在時の代役について「特定の誰かをスタメンで出さない方がいい」と述べており、固定した代替案を持つよりも流動的な起用でカバーすることの重要性を指摘した。
ただし問題は、久保の存在がチームに与えていた「ゲームの変化」という側面だ。膠着した試合を動かす力、相手の守備ブロックを崩す独創性は、組織的な戦いで補いきれるものではない。とりわけコロンビアやオランダとの対戦では、個の力で局面を変えられる選手の有無が勝敗を左右する可能性がある。
最悪のシナリオを想定するならば、今大会における日本の可能性は久保の診断結果ひとつに大きく依存している。グレード1の軽傷であれば、第3戦コロンビア戦や決勝トーナメントでの復帰も視野に入る。その場合、本当の勝負は決勝トーナメントに持ち越される。チュニジア戦でしっかり勝ち点3を積み上げ、久保の帰還を待ちながら戦う——それが今の日本代表に残された最良のシナリオだ。
