2点リードから崩れたマインツ。それでも佐野海舟と川崎颯太は走り続けたEL準々決勝

EL, ECL

66分、GKのバッツがPKを止めた。スタジアムが揺れた。

スコアは0-2。2点のリードを持って迎えた第2戦で、すでに2点を返されていた。それでも、このセーブがあれば、まだ間に合う。そう思わせた瞬間だった。だが4分後、その希望は消えた。

4月16日、フランス・ストラスブール。クラブ史上初めて欧州の舞台に立ったマインツは、ECL準々決勝第2戦で0-4と大敗し、2試合合計4-2での敗退が決まった。2点リードを守れなかった悔しさの中でも、佐野海舟は90分間走り続け、川崎颯太は2試合を通じてピッチに立ち続けた。この「奮闘」という言葉が、これほど似合う敗戦はそうそうない。

クラブ史上初の欧州挑戦

まず、この敗退の「重み」を正しく受け取るために、文脈を知っておく必要がある。

マインツにとって2025-26シーズンのECL出場は、クラブ史上初めての欧州大会参加だった 。ブンデスリーガで長く中位に位置し、派手な補強もなく、スター選手も少ない。そのマインツが欧州の舞台に立ったこと自体、すでに歴史だった。リーグフェーズを6試合4勝1分1敗で7位通過し、ノックアウトステージでもシグマ・オロモウツを撃破してベスト8に入った。「クラブ初の欧州ベスト8」という事実は、いまだに色褪せない 。

あなたは自分のクラブが初めて欧州の大会に出た瞬間を想像できるだろうか。その喜びごと、準々決勝の第2戦で壊されたのだ。

11分、佐野海舟が「止められなかった」場面

時計を第1戦に戻す。4月9日、ホームのマインツがストラスブールを迎えた一戦。

11分、佐野海舟がボールを持った。場所はハーフウェイライン付近。そこから彼は前に出た。1人をかわし、2人に当たってもボールを離さず、カットインしながらペナルティエリア前まで侵入。そして22ヤード(約20メートル)の位置から右足を振り抜いた。巻いたシュートはポスト内側を叩いてゴールへ吸い込まれた 。

実況のコメンテーターが一瞬言葉を失ったと後に報じられたのも頷ける場面だった 。試合後、ドイツの老舗紙ビルトは「魔法のようなゴール。ブンデスリーガでも最高の選手の一人」と書いた 。マインツの地元紙Allgemeine Zeitungはさらに踏み込み、「112億円の評価額に値することを示した」と表現した 。

一つ重要な事実として触れておきたい。佐野海舟は「点を取る選手」ではない。フィールドで走り、奪い、つなぐ。そういう選手だ。このゴールが生まれるまで、マインツでの76試合でわずか1ゴールしか決めていなかった 。だからこそ、このミドルシュートの意味は大きい。普段スコアシートに名を刻まない選手が、欧州の大舞台で刻んだ一撃だった。

川崎颯太という「もう一人のキーマン」

このゴールの直前に、忘れてはならない名前がある。川崎颯太だ。

2001年7月30日生まれ、山梨県甲府市出身 。京都サンガから2025年7月にローン加入し、今シーズン中にマインツが買取オプションを行使して完全移籍が成立した24歳だ 。京都サンガではキャプテンも務め、通算179試合・14ゴール・11アシストという実績を残してブンデスリーガの舞台に飛び込んだ 。

第1戦で川崎がボールを動かし、佐野の侵入コースを作り出したことが、あのゴールの布石になった。UEFA公式記録にも「アシスト:川崎颯太」と刻まれている 。「京都サンガからブンデスリーガ、ECL準々決勝」という道筋を、あなたはどう受け止めるだろうか。遠回りに聞こえるかもしれないが、その道を歩いた選手だけが立てた舞台がある。

第2戦、マインツを飲み込んだ9分間

2-0のリードを持って臨んだ第2戦。試合は最初の35分間で実質的に動いた。

26分、ストラスブールのナナシが先制ゴールを決めた。アシストはチルウェル。これで通算スコアは2-1となり、マインツのリードは1点に縮まった 。そして35分、ウワタラが追加点を決めた。このゴールを演出したのがエンシソだ。パラグアイ出身のアタッカーで、第1戦では出番がなかった「隠し玉」として第2戦に投入された選手だった。彼がピッチに入ってからストラスブールのギアが明らかに上がった 。

わずか9分間で2失点。これで通算2-2のタイになった。マインツは守備ブロックを固めて耐える選択をしたが、そのための陣形を整える時間が足りなかった。ライン間にスペースが生まれ、ストラスブールの速いパス回しを止めきれなかった 。「2-0から守りに入る」という心理的な落とし穴にはまった可能性がある。

PKセーブ、そして4分後の終焉

それでも、マインツには「逆転」のチャンスがあった。

64分、MFドミニク・コールがペナルティエリア内でバルコを倒し、ストラスブールにPKが与えられた 。しかし66分、GKダニエル・バッツがエメガのPKを止めた 。決まっていれば3-2、マインツ撃沈の場面だった。スタジアムが息をのみ、マインツのサポーターは一瞬だけ希望を取り戻した。

だが70分、エンシソが3点目を叩き込んだ 。PKセーブからわずか4分後のことだ。74分にはエメガが4点目を追加し、試合は事実上終わった 。「あと4分だけ持ちこたえていれば」という言葉が何度頭をよぎっても、もう時計は戻らない。佐野海舟は90分間、ピッチから離れなかった 。川崎颯太は72分での交代となったが、2試合を通じて先発で戦い続けた 。

あなたが佐野の立場なら、あの90分間をどう走り切れただろうか。

海外が見た「二人の評価」

日本のメディアは「マインツ、大逆転負けで敗退」という見出しを打った。しかし海外の反応は、少し違う温度感だった。

第1戦後のr/soccerには「I get Kanté vibes with him(カンテを彷彿させる)」というコメントが並んだ 。カンテとはチェルシーやアーセナルなどで活躍したフランス代表の名ボランチで、「守備で貢献しながら試合を動かす」という役割を担ったことで知られる名手だ。その選手と比べられるというのが、海外での佐野への評価を端的に示している。

第2戦の敗退後も、r/soccerやドイツメディアが佐野個人を批判するコメントはほとんど見当たらなかった。敗因として語られたのは、チーム全体の守備組織の問題とエンシソへの対応不足だった 。個人が走り続けても、チームの構造が崩れれば止められない。それが欧州カップ戦の現実だ。

「ブンデスで最も過小評価されている選手」という評価は、この敗退後も消えていない 。今夏の移籍市場では複数のクラブが佐野に関心を示しているとビルトが報じているが、移籍はまだ確定していない。あくまで「可能性として浮上している段階」だと正確に伝えておく 。

悔しさの先にあるもの

マインツの欧州挑戦は、準々決勝で終わった。

だが試合が終わった後も、第1戦の佐野のゴールは残る。川崎が作り出したアシストの軌跡も残る。クラブ史上初めての欧州大会で、日本人選手が二人そろって先発し、ゴールとアシストを記録した事実は変わらない。第2戦の悔しさは本物だ。しかしそれと同じだけ、この2試合を通じた奮闘も本物だった。

欧州で戦うということは、勝ち続けることだけを意味しない。負けた試合の中で何を見せたか。それもまた、選手の価値を語る言葉になる。佐野海舟と川崎颯太は、マインツという舞台で、間違いなく何かを見せた。次の舞台が、どこになるとしても。

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