ハイプレスは、相手ゴールの近くから圧力をかけ、ボール奪取や前進の阻止を狙う守備だ。前線の選手が猛烈に追っているのに、数本のパスで外されることもある。その違いはどこにあるのか。
見るべきなのは、追いかけた先の受け手と、後方に残った空間である。アタランタの欧州リーグ決勝、プレミアリーグのボーンマス対ニューカッスル、日本がスペインと戦ったパリ五輪、ベンフィカのクラブW杯という4試合を手がかりに、その仕組みを読み解く。
ハイプレスとカウンタープレスは何が違う?
ハイプレスの「ハイ」は、圧力をかける位置の高さを表す。 相手がGKやDFから攻撃を組み立てようとするところへ出ていき、自由に前進させない。高い位置に立って待つだけでなく、ボール保持者や受け手に働きかける守備である。FIFAのハイプレス解説
一方、カウンタープレスは、ボールを失った直後に奪い返そうとする行動を指す。こちらの軸は「いつ始まるか」だ。敵陣深くで失ってすぐ囲めば、高い位置でのカウンタープレスになる。相手のゴールキックに備えて構え、そこから追い始める場面とは出発点が違う。FIFAのプレッシング分析
ゲーゲンプレスも、基本的にはこのカウンタープレスと同じ概念を指す。 ドイツ語由来の呼び方で、クロップ時代のドルトムントやリバプールの戦い方と結びつけて知られている。リバプールの公式解説でも、カウンタープレスをゲーゲンプレスとも呼んでいる。リバプール公式の戦術解説
狙いは、奪われた直後に相手の速攻を止め、できればその場で取り返して再び攻めることだ。「ゲーゲンプレスはハイプレスをさらに強くしたもの」と考えると混同しやすい。ハイプレスは主にどこで追うか、カウンタープレス/ゲーゲンプレスはボールを失った直後にどう反応するかを表す、と整理するとよい。
この区別は、失敗の理由を考えるときにも役立つ。ゴールキックへの守備なら、相手の配置を見て担当を決めやすい。ボールを失った直後は、攻撃時に味方がどこにいたかが、そのまま囲みやすさに影響する。「もっと速く寄せる」だけでは、遠くにいる味方まで同時には動かせない。
合図を共有し、相手の逃げ道を絞る
プレス開始の合図を「トリガー」と呼ぶ。後ろ向きの受け手へのパス、GKへの戻し、大きくなったタッチなどが候補になる。ただし、バックパスが出れば必ず全員で飛び出す、という意味ではない。近くの味方が次の受け手へ出られるかまで含めて、追う瞬間を合わせる。
FIFAの指導解説には、中央の受け手へあえてパスを通させ、その選手に背後から圧力をかけて後退させる例がある。一つの出口を見せて、そこで捕まえる。 プレスには、相手の選択を利用する側面がある。FIFAのトリガーと誘導の解説
もう一つの鍵が「カバーシャドー」だ。ボールへ近づく選手が、その背中側にいる相手へのパスコースも遮る。身体を盾にするような位置取りで、目の前の保持者と、その先の受け手に同時に影響を与える。FIFAの練習解説でも、寄せる選手がパス先を隠し、周囲が別の受け手へ出る連係を扱っている。FIFAのカバーシャドー解説

図1では、緑のFWが中央のCMへのコースを消し、紺のCBに外のSBへのパスを選ばせる。そこへ緑のWMが出て、CMも縦の受け手を捕まえる想定だ。GKはゴールキーパー、CBはセンターバック、SBはサイドバック、CMは中央のMF、WMはサイドのMF、Wはウイングを表す。
サイドへ誘う利点は、タッチラインの外へ逃げられないことにある。ただし、外へ出た味方の後ろが空いていれば、縦パスで脱出される。逆に、中央へ誘って囲む設計もある。どちら向きが正解かより、誘った場所に次の守備者が待っているかを見ると、チームの狙いが分かりやすい。
前線だけでは成立しない。アタランタの成功例
前線が追い、中盤が離れたままだと、相手はその間で受けられる。中盤が前へ出るなら、最終ラインも距離を詰める必要がある。FIFAの2025年クラブW杯分析も、高い最終ラインと、選手間の距離を小さく保つことを、ハイプレスを続ける条件に挙げている。FIFAの大会分析
その連動を具体的に考えられるのが、2024年5月22日、アタランタがレバークーゼンに3-0で勝った欧州リーグ決勝である。UEFA公式記録
UEFAは、アタランタが相手を一人ずつ捕まえ、ジャカとパラシオスを経由する組み立てを制限したと分析している。象徴的なのは、CBのヒエンが、低い位置まで下がるビルツを追ってボールを奪った場面だ。前線を越えるパスが出ても、その受け手を後方の選手が自由にしなかった。
同時に、アタランタは後方で1対1になるリスクも受け入れていた。UEFAが取り上げたコラシナツとルッジェーリの対応では、フリンポンへの圧力を保ちながら、背後へ走れる身体の向きも準備している。相手に近づくことと、裏へ出たボールに対応することを両立させていた。UEFAの決勝分析
ここから読み取れるのは、前線が強く追える範囲を、後方の守備能力が支えていたということだ。同じ配置でも、CBが前へ出られない、あるいは背後への競走に対応できないなら、中盤と前線は同じ強さで追い続けにくい。アタランタの例は、マンツーマンを採用すれば必ず成功するという話ではない。
GKもその連動の最後にいる。最終ラインが上がるほど、ゴールとの間は広がる。GKは前方の状況を見て位置を調整し、DFの裏へ出たボールに先に触れる準備をする。ただし、相手が余裕を持って長いボールを蹴れる状況なら、前へ出るだけで安全になるわけではない。UEFAのGKによる背後の守備の解説
プレミアリーグでは、どうハイプレスを使う?
プレミアリーグでハイプレスを考えるとき、クロップ時代のリバプールはよく知られた例だ。ただし、同じリーグでも、どのチームも同じように追うわけではない。2024/25シーズン途中のリーグ公式分析では、ボーンマスなどが高い位置で積極的に圧力をかける一方、中盤で守備の形を整える「ミドルブロック」を選ぶチームも取り上げられている。プレミアリーグ公式の戦術傾向分析
連動の具体例は、イラオラ監督率いるボーンマスが、2025年1月18日にニューカッスルへ4-1で勝った試合の44分の得点だ。プレミアリーグ公式記録
リーグ公式分析によると、この場面ではボーンマスの前方の6人がそれぞれ相手を捕まえ、ダン・バーンのパス先をブルーノ・ギマランイスへ絞った。受けたギマランイスにはライアン・クリスティーが素早く寄せて奪取。そこからウアタラのスルーパスを経て、ジャスティン・クライファートが決めている。リーグ公式のプレス分析、ニューカッスル公式レポート
この得点は、最後に奪ったクリスティーだけでなく、周囲が受け手を捕まえた働きとセットで見ると分かりやすい。ボールを持つCBへ全員が殺到するのではなく、次に渡る相手を準備して待つ。その先まで連動したことで、高い位置の奪取がシュートに結びついた、と読める。
プレミアリーグ観戦でも、強く寄せる場面だけを探す必要はない。相手が短くつなぐときに前へ出るのか、中央へのコースを閉じて待つのか。同じチームが試合の中で追い方を変えるところまで見れば、ハイプレスを使う意図がつかみやすくなる。
日本対スペインに見る、数的優位と「第三の選手」
相手が一人ずつ捕まえに来るなら、その担当関係を動かす手がある。高い位置の選手が下がり、ボールの近くに受け手を増やす方法だ。
2024年8月2日、パリ五輪男子準々決勝で、日本はスペインに0-3で敗れた。 JFA公式記録
FIFAの公式分析が「クリップ1」で説明する場面では、フェルミン・ロペスが下がり、バリオスとともに藤田の周囲で数的優位を作った。藤田がバリオスへ出ると、素早いワンタッチの連係からフェルミンがフリーで受ける。山本が横へ引き出され、その先では逆側のバエナや左サイドを使う展開につながった。FIFAの日本対スペイン分析
守備側にとって難しいのは、下がる選手を追うか、受け渡すかの判断である。CBがついていけば最終ラインに穴が開き、残れば中盤の味方が複数の相手を見ることになる。ここでは、藤田一人の寄せの速さだけを取り出しても、プレスが外れた仕組みを説明できない。
このような連係を理解するために覚えておきたいのが、「第三の選手」を使う考え方だ。Aから直接Cへ通しにくいとき、Bに当て、BからCへ届ける。Bは相手を背負ったまま短く落とし、Cは別の角度から前を向いて受ける。FIFAの第三の選手の解説

図2は、この仕組みを単純化した仮想例である。Bが無理に反転しなくても、Cが受ける角度を変えれば、前進できる。Cはパスが来てから動くのではなく、Bが受ける間に準備する。
また、プレスを一度外した後のサイドチェンジにも意味がある。ボール側へ寄った守備を、再び逆向きに走らせられるからだ。日本対スペインの場面は、中央で余る選手を作ることと、その先で逆側の空間を使うことを、一続きの攻撃として見る例になる。
GKを加え、プレスの上を越える。ベンフィカの例
GKがパス交換に加われば、守る側は対応する相手が一人増える。例えばGKとCB2人に対してFW2人なら、その局面は3対2だ。FWがGKへ出た瞬間、別の受け手が空く可能性がある。これは人数関係を説明する仮想例であり、それだけで必ず前進できるわけではない。
FIFAの2025年クラブW杯の座談会では、GKがボールを持って相手を引きつけ、その先へ配球する役割が論じられている。出口は短いパスだけではない。前へ出てきた守備の頭上を、長いボールで越えることもできる。FIFAのGKとプレス回避の分析
具体例は、2025年6月24日、ベンフィカがバイエルンに1-0で勝ったクラブW杯のグループ戦だ。決勝点は13分のシェルデルプ。FIFAの試合日情報、バイエルン公式レポート
FIFAの座談会の「04:19」から始まる解説では、ベンフィカがプレスを誘って長く蹴り、最初の競り合いと、その後のこぼれ球を回収した例を取り上げている。さらに外へ展開し、前へ人数をかけたバイエルンの後方を攻めた。「04:19」は解説動画内の位置で、試合の経過時間ではない。FIFAのベンフィカ分析
ここでの観戦ポイントは、キックの距離よりも落下点の周囲だ。味方が近くにいなければ、長く蹴っても相手に回収され、もう一度攻められる。逆に、競る選手とこぼれ球を拾う選手がそろっていれば、相手の前線を一気に越えられる。
なお、このプレス回避の例を、そのまま13分の得点過程と同一視はできない。公式レポートが記す得点は、アウルスネスの折り返しをシェルデルプが決めたものだ。また、後半にはGKトルビンのセーブもあった。1-0という結果のすべてを、プレス回避だけで説明することはできない。バイエルン公式レポート
高くすれば背後が、下がればライン間が空く
ハイプレスが効く条件を整理すると、前へ人数を出すことと、その後ろを守ることは切り離せない。FIFAのGK配球の解説は、相手の最終ラインが高ければその背後、深ければ中盤との間が、長いパスの届け先になり得ると整理している。FIFAの配球解説
最終ラインを高くすれば、前線や中盤を支えやすい。その代わり、速いFWへ裏を狙われる。背後を怖がってDFだけが下がれば、今度は中盤との間で相手が受けやすくなる。どちらの空間を優先して守るかを、チームでそろえる必要がある。
今回の事例を比べると、次のように捉えられる。これは各公式分析をつないだ本記事の解釈である。
- アタランタは、後方も相手について出ていくことで、前線を越えた先の受け手まで捕まえた。
- ボーンマスは、前方の受け手を制限し、高い位置の奪取から得点へつないだ。
- スペインは、中盤へ受け手を追加し、日本の「誰が追うか」という担当関係を揺さぶった。
- ベンフィカは、近くのパス交換を続ける以外の出口を使い、競り合いと回収の準備で前進した。
つまり、同じように前から追っていても、「相手がどこへ逃げようとするか」と「その出口に味方が間に合うか」で結果が変わる。走る勢いは大切だが、勢いを発揮できる人数関係と距離が先に必要になる。
次の観戦では、2本目のパスまで追ってみる
最初は全員の動きを追わなくてもよい。相手GKやCBが持った場面で、次の順に見ると、プレスの狙いがつかみやすい。
- 何を合図に出たか。 戻しのパスか、後ろ向きの受け手か、乱れたタッチか。
- 最初の守備者は何を隠したか。 ボールへ向かう角度と、背中側のパス先を見る。
- 次の受け手に誰が出たか。 最初のパスが通っただけで失敗と決めず、2本目の出口まで追う。
- 長く蹴られた後、誰が拾ったか。 競り勝った選手だけでなく、こぼれ球に近い味方を見る。
追い始めた選手が途中で止まり、全体が下がる場面もある。味方の支援が間に合わないときに、形を整え直す判断なら、単純な消極策とは言えない。FIFAの解説でも、疲労やスコアに応じて中盤や自陣へ守備位置を戻す選択が示されている。FIFAのハイプレス解説
日本人選手を見るときも、奪った回数に加えて、相手をどちらへ向けたか、味方が出るまでの時間を作れたかに目を向けたい。ボールに触らなかった一歩が、次の味方の奪取を助けていることがある。
出典・参考
- FIFA:High press
- FIFA:高い位置でのボール奪回とカバーシャドー
- FIFA:2023女子W杯のプレッシング分析
- UEFA:2024欧州リーグ決勝の戦術分析
- UEFA:2024欧州リーグ決勝公式記録
- FIFA:パリ五輪スペイン対日本の攻撃分析
- JFA:パリ五輪準々決勝の公式記録
- FIFA:Third-player combinations
- FIFA:2025クラブW杯・ハイプレスへの対処
- バイエルン:2025年6月24日ベンフィカ戦公式レポート
- FIFA:GKの長いゴールキックが作る選択肢
- FIFA:2025クラブW杯のハイプレスと最終ライン
- FIFA:ベンフィカ対バイエルンの試合日
- UEFA:GKによる最終ライン背後の守備
- リバプール:優勝チームの戦術とゲーゲンプレス
- プレミアリーグ:ボーンマスのプレス分析(2025年1月23日)
- プレミアリーグ:2025年1月18日ニューカッスル対ボーンマス
- ニューカッスル:ボーンマス戦公式レポート
- プレミアリーグ:2024/25シーズン途中の戦術傾向

