xG(ゴール期待値)を見ると、「勝ったから攻撃が良かった」「無得点だから決定力が低かった」という評価を、もう一段掘り下げられる。問えるのは、どんな機会を作り、それをどう打ち、何が結果を分けたかだ。
2022年W杯で、日本はドイツに2-1で勝った後、コスタリカに0-1で敗れた。この2試合と、スターリングの直接FKを手掛かりに、数字とプレーをつなげてみよう。実例の数値は出典記事の掲載値を使い、説明用に作った数値には「仮想例」と記す。
xG「0.20」は、1本の機会をどう評価する数字か
1本のシュートに付くxGは、その機会がゴールになる確率の推定値だ。0.20なら20%。同じような条件の機会を数多く集めれば、平均すると5本につき1点ほど入る、という意味になる。次の5本で必ず1点入るという約束ではない。Hudl Statsbombの定義
モデルは過去のシュートから、距離、角度、足か頭か、直前のパスなどと得点の関係を学ぶ。同じ地点でも、浮き球を頭で合わせる場面と、足元のボールを打つ場面は違う。GKや守備者の位置も扱うモデルがあり、「この場所はいつも0.20」と位置だけで決めることはできない。Hudl Statsbombの計算方法
通常のxGが評価するのは、シュート時点までの状況だ。決めやすい機会を大きく枠外へ外しても、その機会のxGは消えない。また、数値はモデルの基準であり、特定の選手本人の成功率を完全に表しているわけではない。Optaの方法論
同じ合計1.0でも、好機2本とシュート10本は違う
試合や選手の合計xGは、基本的に各シュートの値を足して読む。0.20、0.30、0.50なら合計1.0だ。合計は1を超えることもあり、「2.0 xG」は得点確率200%という意味ではない。連続シュートを攻撃単位で補正する集計もあるため、表示元の定義は確認したい。
仮想例として、次の2つを比べる。各シュートは別々の攻撃で生まれ、結果が互いに影響しない独立した試行とする。
- A:0.50の好機が2本。合計1.0 xG、1本平均0.50。
- B:0.10の機会が10本。合計1.0 xG、1本平均0.10。

Aは少数の大きな好機に集中し、Bは1本ごとの得点確率が低い機会を積み重ねている。ここから観戦へつなげるなら、Aでは「好機を作れた攻撃と、打てずに終わった攻撃の違い」、Bでは「もっと決めやすい状況まで進めたか」を見る。同じ合計でも、映像で探す課題は変わる。
得点数の出方も同一ではない。この仮定でAが無得点になる確率は、2本とも外す確率なので0.50×0.50=25%。Bは0.90を10回掛けて約34.9%となる。合計1.0でも無得点は起こり、無得点になる確率さえ内訳によって違う。
これは本稿の仮想計算で、現実の試合をそのまま再現するものではない。合計xGだけから正確な得点確率を出せないのは、1本ずつの値やシュート同士の関係が抜け落ちているためだ。
日本対コスタリカ:13本を「決め切れなかった」で終わらせない
2022年11月27日、W杯グループEで日本はコスタリカに0-1で敗れた。Opta Analystの当日の記事では、日本は13本のシュートで合計0.85 xG。前半は両チームとも枠内シュートがなく、両チームを合わせたxGも0.05にとどまった。Optaの試合分析
日本の1本平均を計算すると、0.85÷13で約0.065となる。ただし、これは全シュートがそれぞれ6.5%の機会だったという意味ではない。難しい機会と比較的良い機会が混ざった結果だ。それでも「13本も打った」という本数だけの印象に、機会の質という別の判断材料を加えられる。
相手の守り方と照らすと、その数字を読む入口が見える。JFAの記録によれば、コスタリカは5バックで守備を固め、日本は前線にボールを収められず苦戦した。後半には攻撃を増やしたものの、81分に失点。88分には三笘薫が左から切り込んで折り返し、鎌田大地が打ったが、GKケイロル・ナバスに止められた。JFAの試合報告
ここからのサッカーモグの読み方は、シュートの失敗と、好機を作る過程を分けることだ。終盤の一場面を決められなかった事実と、前半から十分な機会を作れていたかは、別々に検討できる。
映像を見返すなら、三笘が相手の守備の内側へ入り、中央へ折り返した場面と、それ以前に攻撃が止まった場面を比べたい。外からクロスを入れる前に中央の受け手を作れていたか、相手を動かしてからパスを出せていたか。その比較なら、FWのシュート技術だけに敗因を集めず、次に好機を増やす方法まで考えられる。なお、ここでは鎌田の1本のxGを確認していないため、平均値からその機会の値を逆算してはいない。
ドイツ対日本:合計に隠れる後半の変化とこぼれ球
4日前の2022年11月23日、日本はドイツに2-1で逆転勝ちした。Opta Analystの当日の集計では、ドイツは試合全体で3.0を超えるxGを記録していた。前半だけでもドイツ1.68、日本0.11。ドイツの前半の値には、先制点となったPKの0.79が含まれる。Optaの試合分析
前半のドイツは、PKを除けば1.68−0.79=0.89 xGとなる。この差し引きは本稿の計算だ。PK以外でも機会を作っていたことと、PKが前半合計を大きく押し上げたことを同時に読める。PKを獲得した攻撃の価値がなくなるわけではなく、内訳を分けているのである。
一方、日本の前半0.11を、そのまま90分間の攻撃内容と考えることはできない。JFAの試合報告では、日本は後半から冨安健洋を入れて3バックへ変更。75分に南野拓実のシュートをノイアーが弾いたところへ堂安律が詰め、83分には浅野拓磨が右の角度の厳しい位置から決勝点を決めた。JFAの試合報告
ここで合計xGが答えるのは、記録されたシュート機会の評価だ。「日本は何もできず、運だけで勝った」「勝った日本の方が終始良い攻撃をした」のどちらも、合計とスコアだけでは導けない。前半の劣勢、後半の配置変更、実際のシュート場面を分けて見ることで、改善した部分と残った苦しさを両方捉えられる。
堂安の同点弾は、こぼれ球の読み方にもつながる。南野のシュートが入っていれば、その直後の堂安のシュートは生まれなかった。2本は、別々の攻撃で得た2度の好機とは関係が異なる。
仕組みを示す仮想例として、最初のシュートを0.40、外した後の追加機会を0.50とする。「外せば必ずその追加機会が来る」と仮定したとき、攻撃全体で得点する確率は0.40+0.60×0.50=0.70であり、単純合計の0.90とは違う。これは南野・堂安の実際のxGではない。実際には、外してもこぼれ球を拾えるとは限らない点も含め、合計xGと、一連の攻撃で1点を取る確率を区別するための例だ。複数シュートの集約を扱う研究
スターリングのFK:0.10 xGと0.81 xGOTは何が違うか
2021年1月17日のプレミアリーグ、マンチェスター・シティ対クリスタル・パレス。4-0で勝ったシティの最後の得点は、スターリングがゴール上隅へ決めた直接FKだった。マンチェスター・シティ公式
Optaが2021年6月23日の解説で示したこのシュートの値は、xGが0.10、xGOTが0.81。xGOTは枠内シュートを対象に、元の機会の質とゴールマウス内の到達位置を使う指標だ。OptaのxGOT解説
この2つは「予測を外したので、後から数字を直した」という関係ではない。問うているものが違う。
- 0.10 xG:蹴る時点では、得点しにくい機会だった。
- 0.81 xGOT:実際の枠内への飛び方を加味すると、得点につながりやすいシュートだった。
- 1得点:そのシュートが実際に入ったという結果である。
この整理なら、難しい位置から決めた事実を「運が良かった」の一言で終わらせず、打った球の質にも目を向けられる。ただし、0.81は「GKが81%の責任を負う」という意味でも、この先も同じFKを決め続ける保証でもない。xGOTだけで失点責任や選手の能力を確定することはできない。枠内のシュートだけを見れば、枠を外した失敗も抜け落ちる。選手の打ち方を評価するときは、枠外やブロックされた試行も合わせて見る必要がある。

同じ理由で、一試合の「得点−xG」をそのまま決定力と呼ぶのも早い。差には打ち方、GKの対応、偶然の振れ、モデルが拾い切れない条件が混ざる。KU Leuvenの研究でも、試行数や学習データの偏りなどが決定力評価を難しくすると検討されている。研究者による解説
選手を追うなら、同じ提供元で出場時間、シュート数、1本平均xG、PKを除くxG、得点を並べたい。「出番が減った」「好機に入れなくなった」「好機は得ているが決まっていない」を分けるためだ。期間を長くしても役割や相手は変わるので、試合数だけで確定とはしない。また、外し続けたから次は入るという帳尻合わせもない。
提供元・モデル・PKの扱いが違えば、比較の意味も変わる
同じ場面でも、モデルに入れる情報や学習データが違えば値は変わる。Hudl Statsbombは周囲の選手やGKの位置、ボールを打つ高さなどを使う。Optaの公開方法論にもGKの位置、守備の圧力、ゴールの見え方が含まれるため、「Optaは距離と角度だけ」といった分け方はできない。Hudl Statsbomb、Opta
同じ提供元でもモデルは更新される。Statsbombは2022年の更新で、GKやブロックに入る選手の位置への反応などを改善したと説明している。本稿が実例の数値を出典記事の掲載値にそろえたのも、過去の記事と現在のデータ画面を無条件に混ぜないためだ。Statsbombのモデル更新
比較では少なくとも、提供元、対象期間、PK込みか、シュート前のxGか打った後の指標かをそろえる。「PSxG」という名前でも、使う情報がモデルごとに違うため、xGOTと同一の数値だとは扱えない。StatsbombのPSxG説明
PKを除く「npxG」にも読みどころがある。PK担当者とそれ以外の選手を比べる際、PKの影響を分けられる。ただし、FKやCKからのシュートは残る。npxGは、流れの中の攻撃だけを測った数字ではない。 崩しの再現性を見たいなら、そこからさらにセットプレーと流れの中を分ける必要がある。Sportmonksの指標定義
ラカゼットの運び:シュートにならなかった攻撃をどう見るか
通常のシュートベースのxGには、打つ前に終わった攻撃の機会は加算されない。「枠を外した」と「味方が届かず、打てなかった」は、映像ではどちらも惜しく見えても、記録上は違う。
Stats PerformのPossession Value解説は、アーセナル時代のラカゼットのプレーを例にしている。自陣で受けて相手陣へ運び、左のコラシナツへ渡したが、その後のクロスは守備者に頭で処理されてCKになった。シュートがないため、ラカゼットが攻撃を進めた貢献はxGに表れない。同社はこうした保持中の貢献を、別の評価の枠組みで扱っている。Stats Performの解説
この例を日本人選手の観戦に置き換えるなら、三笘のようなウイングや前進パスを出すMFを、本人のxGだけで評価しないということだ。良い場所へ運んでも、最後のパスがずれたり、受け手が間に合わなかったりすれば、シュートには結び付かない。
映像では、攻撃がどこまで進み、どの段階で止まったかを分けて見る。逆に、遠い位置から無理に打てば小さくてもxGは付く。したがって、xGが付いた攻撃すべてが、打たずに終わった攻撃より良い判断だったとも言い切れない。「そこで打つか、もう一度つなぐか」の良し悪しは、実際に打ったシュートのxGだけでは決まらないのである。
次の観戦では、数字から「見返す場面」を決める
試合後は、合計xGで結論を出す前に、次の順で記憶や映像と照らしてみたい。
- 数字の条件をそろえる。 提供元、期間、PKの有無、xGかxGOTかを確認する。
- 本数と内訳を見る。 コスタリカ戦のように、本数が増えても好機の質が伴っていたかを確かめる。平均だけで全シュートを同じ機会と扱わない。
- 時間と前後関係を見る。 ドイツ戦のように前後半や交代の前後を分け、こぼれ球が別々の攻撃ではないことも押さえる。得点や退場があれば、攻め方が変わったかを見る。
- 機会・打ち方・結果を分ける。 スターリングのFKのように、難しい機会から良い球を打つこともある。シュート未遂は映像で補う。
次戦で確かめたいのは、「今日は決まるか」だけではない。同じ入り方でゴール前へ出られるか、相手を動かして中央へ届けられるか、良い位置で受けても守備に寄せられてしまうか。xGを入口に見返す場面を選ぶと、選手やチームが続けたいプレーと、変えたいプレーが具体的になる。
出典・参考
- Hudl Statsbomb:xGの定義・モデル差・PSxG
- Opta Analyst:xGの公開方法論(2023年8月8日)
- KU Leuven DTAI:xGと決定力評価の偏り(2024年2月8日)
- Statsbomb:得点状況とxGの解釈(2018年6月27日)
- Robberechtsほか:un-xPass、複数シュートの集約式(2022年)
- Statsbomb:2022年のモデル更新
- Opta Analyst:xGOTの対象と計算方法
- Stats Perform:シュートに至らない貢献とPossession Value
- Sportmonks:npxGとオープンプレーxGの定義(2026年7月16日更新)
- Opta Analyst:日本0-1コスタリカ(2022年11月27日掲載値)
- JFA:日本対コスタリカの試合報告(2022年11月28日)
- Opta Analyst:ドイツ1-2日本(2022年11月23日掲載値)
- JFA:ドイツ対日本の試合報告(2022年11月24日)
- マンチェスター・シティ公式:2021年1月17日パレス戦のハイライト説明
- マンチェスター・シティ公式:2020/21シーズンの試合結果・開催日
- JFA:ドイツ対日本の公式試合記録

