鈴木彩艶がついにプレミアリーグの舞台に立った。アストン・ヴィラ加入後初出場となったアーセナル戦に先発し、チームは0-1で敗れたものの、1対1の対応や強烈なロングフィードで存在感を示した。日本人GKとして史上初となるプレミアリーグ出場は、結果以上に今後への期待を感じさせる90分となった。
鈴木彩艶がアストン・ヴィラで公式戦デビュー
現地時間8月31日に行われたプレミアリーグ第2節。アストン・ヴィラはホームのヴィラ・パークに昨季王者アーセナルを迎えた。
ウナイ・エメリ監督がゴールマウスを託したのは、今夏パルマから加入した鈴木彩艶だった。
開幕節のブライトン戦ではマルコ・ビゾットが先発したが、ヴィラは前半31分までに4失点。最終的に0-4で敗れ、守備陣を含めて厳しいスタートを切っていた。
その一戦からGKを変更し、鈴木を先発に抜てき。アーセナルという難敵を相手にプレミアリーグデビューを迎えることになった。
鈴木はこれがアストン・ヴィラでの公式戦初出場であり、日本人GKとして史上初めてプレミアリーグの試合に出場した選手となった。
ヴィラでは長年、アルゼンチン代表のエミリアーノ・マルティネスが絶対的な守護神として君臨してきた。そのマルティネスが今夏に退団したことで、ゴールキーパーの序列は大きく変化している。
そこへ加入した24歳の鈴木にとって、このアーセナル戦は単なるデビュー以上の意味を持つ試合だった。
王者アーセナルを相手に59分まで無失点
開幕戦ではブライトンに4失点したヴィラだったが、この日は明らかに違う姿を見せた。
相手は昨季プレミアリーグ王者のアーセナル。ミケル・アルテタ監督のチームはボールを保持しながらヴィラ陣内へ押し込み、セットプレーも含めてプレッシャーをかけ続けた。
それでもヴィラは簡単には崩れない。
12分にはエミリアーノ・ブエンディアがペナルティーエリア外から強烈なシュートを放ち、アーセナルGKダビド・ラヤの守るゴールのクロスバーを直撃。むしろ前半最大級のチャンスを作ったのはホームチームだった。
鈴木も落ち着いて試合に入った。
序盤にはクロスボールを処理し切れない場面があったものの、その後はゴール前で大きく崩れることなく対応。ヴィラは前半を0-0で終え、アーセナルを59分まで無得点に抑えた。
決勝点が生まれたのは59分だった。
アーセナルが右サイドから攻撃を組み立てると、リッカルド・カラフィオーリがゴール前へ低いクロス。最後はブカヨ・サカが至近距離から押し込んだ。
ゴール前まで崩された形であり、鈴木個人の明確なミスによる失点ではない。アーセナルの質の高い連係がヴィラ守備を上回った場面だった。
ハヴァーツとの1対1で見せた強み
失点後も鈴木は集中を切らさなかった。
特に目を引いたのが75分前後のカイ・ハヴァーツとの1対1である。
ヴィラ守備陣の背後を取ったハヴァーツが抜け出し、鈴木との1対1に持ち込む。しかし鈴木は慌てて飛び込まず、最後まで相手の動きを見ながらシュートに反応。ゴールを許さなかった。
最終的にはハヴァーツにオフサイドの判定が出たため公式記録上のセーブには含まれない。それでも、鈴木の1対1における能力がよく表れたプレーだった。
鈴木は身長190センチを超えるサイズを持ちながら、相手との距離を詰める際のスピードにも強みがある。
パルマ時代にもシュートストップだけでなく、ゴール前から積極的に飛び出してシュートコースを狭めるプレーを見せてきた。
一方で、今回のアーセナル戦が完璧だったわけではない。
序盤にはCKでボールをつかみ切れない場面があり、後半には強烈なシュートを一度こぼした。現地メディアもこうした部分を指摘しており、評価は「ミスのない完璧なデビュー」というより、課題を残しながらも今後を期待させる内容だったという位置付けである。
現地で注目された約60ヤードのロングフィード
鈴木のプレミアリーグデビューで最も象徴的だったのは、セービングではなかったかもしれない。
前半、鈴木は自陣ゴール前でボールを持つと、左サイドにいたジョージ・ヘミングスへ一気にロングパスを送った。
ボールは低く鋭い軌道を描きながら約60ヤードを飛び、ヘミングスの位置へ正確に到達。アーセナルのプレスをGKからの一本のパスで越えてみせた。
このプレーにはヴィラ・パークのサポーターも反応した。
Sky Sportsでは元マンチェスター・ユナイテッドのギャリー・ネヴィルが鈴木のフィード能力に注目し、マンチェスター・シティでプレーしたエデルソンを想起させるようなキックとして評価している。
重要なのは、これが単なる派手なロングキックではないことだ。
エメリが率いるチームでは、GKも攻撃のスタート地点となる。相手が前線からプレスをかけてくるなら、GKがその第一列を越えるパスを出せれば、一気に数的優位を作ることができる。
鈴木は右足だけでなく左足でもボールを扱える。
Sky Sportsも両足からの配球能力を今後ヴィラの武器になり得る特徴として取り上げた。
マルティネスとはタイプの異なるGKだからこそ、鈴木の加入によってヴィラのビルドアップ自体が変化する可能性がある。
エメリ監督も評価、新守護神への第一歩
試合後、エメリ監督は敗戦だけを見るのではなく、新加入選手を含めたチームの変化をポジティブに捉えていた。
鈴木と新加入FWニコラス・ジャクソンについても、そのパフォーマンスを肯定的に評価している。
今季のヴィラは大きな転換期にある。
マルティネスだけでなく、モーガン・ロジャーズやユーリ・ティーレマンス、エズリ・コンサなど昨季までの主力が複数退団。新加入選手を大量に迎え、チームそのものを再構築している最中だ。
鈴木もその再建を象徴する一人である。
パルマではセリエAを経験し、欧州5大リーグで正GKとしてプレーした。その実績を評価され、今夏ヴィラへ完全移籍した。
移籍金についてクラブから正式な金額は発表されていないものの、英国では約3000万ポンド規模の契約と報じられている。
GKとして決して小さくない投資であることからも、ヴィラが鈴木を単なる控えとして獲得したとは考えにくい。
アーセナル戦は、その期待に応えるための最初の一歩だった。
開幕4失点からGK変更、正守護神争いはどうなる?
注目したいのが今後のGK序列である。
開幕戦のブライトン戦ではビゾットが先発したものの、ヴィラは0-4で敗れた。
もちろん4失点すべてをGKだけの責任にすることはできない。ただ、その次の試合でエメリが鈴木を起用したという事実は重要だ。
しかも相手はアーセナル。
プレミアリーグ初出場のGKにとって簡単な試合ではなかったが、鈴木は大きく崩れることなく90分を終えた。
開幕戦で4失点したチームが王者相手に1失点。チーム全体の守備改善が最大の要因であるとはいえ、鈴木自身も一定の安定感を見せた。
これだけで「鈴木が正GKの座を確保した」と断定することはできない。
しかし、新加入直後の重要な試合で先発し、エメリからも一定の評価を受け、さらに現地メディアから配球能力を高く評価された。
正守護神争いという意味では、大きな前進になったと考えてよいだろう。
ヴィラ最大の問題はGKよりも攻撃
一方、この試合でアストン・ヴィラが抱えている別の問題も明確になった。
得点力である。
アーセナル戦のシュート数は両チームとも7本だったが、ヴィラは枠内シュートを一本も記録できなかった。
開幕戦に続き、2試合連続で枠内シュート0。開幕2試合を終えて得点もまだない。
アーセナル戦ではブエンディアのシュートがクロスバーを直撃するなど惜しい場面もあったが、相手GKラヤにセーブを強いる場面を作ることはできなかった。
つまり、この日の0-1という敗戦を「鈴木が1失点した試合」と捉えるだけでは、本質を見誤る。
守備は開幕戦の4失点から大きく改善した。それでも攻撃陣がゴールを奪えなければ勝点には結びつかない。
ジャクソンら新加入選手を含めた攻撃陣がどのように機能するかは、鈴木の正GK定着と同じくらいヴィラにとって重要なテーマである。
日本人GK初のプレミアから新守護神へ
鈴木彩艶にとって、アーセナル戦は日本サッカー史にも残る一戦となった。
日本人フィールドプレーヤーはこれまでプレミアリーグで数多くプレーしてきた。しかしGKというポジションで同リーグのピッチに立った日本人はいなかった。
鈴木は浦和レッズからシント=トロイデンへ渡り、パルマでセリエAを経験。そして24歳でプレミアリーグへたどり着いた。
しかも、新天地で最初に向き合った相手は昨季王者アーセナルだった。
結果は0-1の敗戦。それでも、ハヴァーツとの1対1、高精度のロングフィード、そしてゴール前で見せた存在感には、今後への可能性が詰まっていた。
歴史的な「プレミアリーグ初出場」は達成した。
だが鈴木にとって、本当の勝負はここからだ。
マルティネスが長く守ってきたアストン・ヴィラのゴールを引き継ぎ、プレミアリーグで正守護神として定着できるのか。
アーセナル戦の90分は、その挑戦が始まったことを強く印象付けるデビュー戦となった。

