鈴木唯人がブンデスリーガ開幕戦で衝撃のハットトリックを達成した。フライブルクはヴェルダー・ブレーメンを4-1で破り、鈴木は3得点すべてに異なる形で持ち味を発揮。日本人としても歴史に残るスタートとなった。
鈴木唯人が開幕戦で3発、フライブルクを4-1勝利へ
2026年8月30日に行われたブンデスリーガ第1節。フライブルクは本拠地ヨーロッパ・パルク・シュタディオンにヴェルダー・ブレーメンを迎え、4-1で快勝した。
この試合の主役となったのが、トップ下で先発した日本代表MF鈴木唯人である。
鈴木は29分に先制点を奪うと、後半開始直後の48分に追加点。さらに55分にもゴールを決め、自身初となるブンデスリーガでのハットトリックを完成させた。
フライブルクのもう1点は前半終了間際のイゴール・マタノヴィッチ。ブレーメンは76分にダリウシュ・スタルマフが1点を返したものの、すでに試合の大勢は決していた。
鈴木は80分に後藤啓介との交代でピッチを退場。ホームの観衆3万4700人の前で、新シーズンの幕開けを強烈に印象づけた。クラブ公式も鈴木の3得点を大きく取り上げ、ブンデスリーガ公式は「Man of the Match」に選出している。
日本人選手がドイツ1部でハットトリックを記録するのは、高原直泰、武藤嘉紀に続いて史上3人目。さらにブンデスリーガの開幕戦で達成した日本人は鈴木が初めてとなった。
単なる好スタートという言葉では収まらない一戦である。
1点目はヘディング、175cmの鈴木がセットプレーで先制
鈴木の1点目は29分だった。
右CKをヤン・ニクラス・ベステがゴール前へ入れると、鈴木は相手のマークから外れて中央へ入り、頭で合わせた。ボールはゴールへ吸い込まれ、フライブルクが先制した。
鈴木の身長は175cm。空中戦を最大の武器とするタイプではない。それでもヘディングでゴールを奪えたことに、この得点のポイントがある。
重要なのは高さよりも、相手の視野から一度外れてフリーになるポジショニングだった。
攻撃的MFにとって、シュート技術やドリブルと同じくらい得点数を左右するのが「どこに入るか」である。特にペナルティーエリア内では、ボールが来てから動くのでは遅い。
鈴木はCKが蹴られる前から空いたスペースを見つけ、そこへ入ることで決定機を作った。
昨季までの鈴木には、ボールを持った際の技術や狭いエリアでのターン、ドリブルから攻撃を前進させる能力が高く評価される一方、得点数をさらに伸ばせる余地も残されていた。
その意味でも、セットプレーで「合わせる側」として得点したことは興味深い。
後半開始3分で2点目、左足で難しいボールを仕留める
前半終了間際にはマタノヴィッチが豪快なシュートを決め、フライブルクは2-0でハーフタイムを迎えた。
そして後半開始からわずか3分。再び鈴木が試合を動かす。
左サイドでデリー・シェルハントが相手を突破して中央へ折り返すと、鈴木がゴール前へ侵入。難しい高さで入ってきたボールに左足を合わせ、そのままネットを揺らした。
これで3-0。
ここでも目立ったのは、鈴木がボールを受けに下がるのではなく、フィニッシュ地点まで入り込んでいたことだ。
フライブルクの攻撃が左サイドへ展開された瞬間、鈴木は中央で待つのではなく、ストライカーに近い位置まで進んでいる。
しかも右利きの鈴木が左足で処理した。
華麗なミドルシュートではない。だがシーズンを通して得点数を増やすには、こうしたゴール前でのワンタッチを確実に決める能力が極めて重要である。
圧巻の3点目、マタノヴィッチとのワンツーに見えた進化
ハットトリックを完成させた55分のゴールは、この試合における鈴木の働きを最も象徴したプレーだった。
中央でボールを持った鈴木は、前方のマタノヴィッチへ縦パスを送る。
マタノヴィッチがボールを受けてブレーメン守備陣の間を突破すると、鈴木はパスを出した場所に残らず、そのまま前方へ走り続けた。
そしてマタノヴィッチがゴール前へ横パス。最後は鈴木が左足で押し込み、4-0とした。
このゴールには、鈴木の特徴がいくつも詰まっている。
最初に縦パスを入れたのは鈴木である。つまり攻撃を作った選手だ。
しかし、そこでプレーを終えなかった。味方へパスした瞬間に加速し、今度はフィニッシャーとしてペナルティーエリアへ入った。
トップ下にとってこれは非常に重要な動きである。
ボールを持ってチャンスを作るだけなら、相手は鈴木を「パサー」として警戒すればいい。しかしパスを出した後にもう一度ゴール前へ入ってくれば、守備側はマタノヴィッチと鈴木を同時に捕まえなければならない。
「作る10番」から「作って、最後にも入ってくる10番」へ。
今回のハットトリックで最も注目すべき変化は、3得点という数字だけでなく、このプレーの連続性にある。
昨季25試合4得点、開幕1試合だけで早くも3得点
数字を昨季と比較すると、今回のインパクトはさらに大きくなる。
鈴木は2025/26シーズン、加入初年度のブンデスリーガで25試合に出場し4得点を記録した。18試合が先発で、初挑戦ながらフライブルクの攻撃陣で一定の地位を築いた。
それが今季は開幕1試合だけで3得点。
昨季リーグ戦全体のゴール数に、わずか1点差まで迫ったことになる。
ただし、これを完全な「突然の覚醒」と捉えるのも正確ではない。
鈴木は昨季の全公式戦で9得点を記録し、ゴールとアシストを合わせた得点関与数では16に達していた。リーグ戦だけを見ると4得点だったが、ヨーロッパリーグなども含めれば攻撃面で存在感を強めていた選手なのである。
つまり、昨季後半から見えていた得点への関与が、新シーズンのリーグ開幕戦で一気に表面化したと見る方が自然だ。
特に今回の3得点は、派手な個人技によるスーパーゴールを3本並べたものではない。
ヘディング、左からのクロスへの侵入、味方との連係からの走り込み。
ゴール前へ適切なタイミングで入ることで生まれた得点が多い。
これは再現性という意味でも重要である。
鈴木を生かすマタノヴィッチ、2人の関係がフライブルクの武器に
鈴木の今季を考えるうえで、マタノヴィッチとの関係も見逃せない。
ブレーメン戦でマタノヴィッチは1得点1アシスト。鈴木と合わせてフライブルクの4得点すべてを生み出した。
昨季のマタノヴィッチはブンデスリーガ31試合で11得点を記録。大型センターフォワードとして中央で相手DFを引き付けられる存在であり、その周辺を動く鈴木との相性は良い。
典型的なのが3点目だった。
マタノヴィッチが中央でボールを収めることによって、DFの意識は当然ストライカーへ向く。その瞬間、2列目から鈴木がペナルティーエリアへ侵入する。
守備側からすれば非常に捕まえにくい。
鈴木が常に最前線に立てば、センターバックも位置を把握しやすい。しかしトップ下の位置から突然スピードを上げてゴール前に現れることで、マークの受け渡しが必要になる。
鈴木自身もパスを出せるため、DFが鈴木への対応を優先すれば今度はマタノヴィッチが前を向くことができる。
この相互作用が続けば、鈴木の今季の得点数は昨季から大きく伸びても不思議ではない。
現地でも絶賛、それでもシュスター監督は「まだ伸びる」と見る
ハットトリックを達成した鈴木への現地評価は当然高い。
ブンデスリーガ公式は鈴木をマン・オブ・ザ・マッチに選び、それまでブンデスリーガでは1試合2得点さえ記録していなかった鈴木が、一気に初のハットトリックを達成した点を強調した。
試合のxG(得点期待値)はフライブルクが2.59、ブレーメンが0.73。スコアだけでなく、チャンスの質でもフライブルクが大きく上回った一戦だった。
一方、ユリアン・シュスター監督の反応は興味深い。
指揮官は鈴木について、他の選手と同様にさらに成長させていく必要があるとしたうえで、フィニッシュの質にはまだ上積みできる部分があるとの考えを示した。
ハットトリックを決めた選手に対して「決定力はまだ伸ばせる」と見るのである。最後にはこの日の出来を評価しているが、鈴木を完成された選手とは考えていないことが分かる。
これは鈴木にとって悪い話ではない。
むしろ3得点した段階でも、監督がまだ伸びしろを感じているということだ。
鈴木自身も試合後、ハットトリックとチームへの貢献を喜びながら、「今日は完璧だった。これを続けたい」という趣旨のコメントを残した。
問題は、まさに「続けられるか」である。
フライブルク攻撃陣の中心へ、マンザンビ退団も大きな転機
鈴木を取り巻くチーム事情も昨季とは変わっている。
フライブルクは昨季まで攻撃の重要な役割を担ったヨハン・マンザンビを今夏に失った。チームにはベステ、シェルハント、ヴィンチェンツォ・グリフォ、マタノヴィッチら多くの攻撃的選手がいるものの、マンザンビが担っていた前進力や創造性を誰が補うかは新シーズンの課題の一つだった。
鈴木がマンザンビの役割をそのまま引き継ぐわけではない。
しかし、攻撃の中心選手が一人抜けたことで、鈴木に求められる責任が大きくなったことは間違いない。
そのタイミングで迎えたリーグ開幕戦で3得点。
これは序列という意味でも大きな結果である。
さらにフライブルクはブレーメン戦まで今季公式戦4連勝。その4試合すべてで3得点以上を奪っている。チーム全体の攻撃状態そのものが良く、その中心に鈴木が入り始めている。
今季は国内リーグだけではなく欧州カップ戦も戦う。
試合数が増えるだけにローテーションは避けられないが、トップ下で得点とチャンスメークの両方を担える選手になれば、鈴木の重要性はさらに高まる。
高原、武藤に続く日本人3人目、次は「一試合の快挙」の先へ
ブンデスリーガにおける日本人のハットトリックは極めて珍しい。
最初に達成したのは2006年12月の高原直泰。アイントラハト・フランクフルト時代に3得点を記録した。
続いたのが2015年10月の武藤嘉紀。マインツでアウクスブルクを相手にハットトリックを達成した。
そして約11年後、3人目として歴史に名前を刻んだのが鈴木唯人である。
さらに鈴木はブンデスリーガ開幕戦でハットトリックを記録した初の日本人となった。
高原と武藤はストライカーだったが、鈴木は攻撃的MFを主戦場とする選手である。その鈴木がゴール前への侵入によって3点を奪ったことは、今後のプレースタイルを考えるうえでも意味が大きい。
もちろん、まだ第1節にすぎない。
1試合のハットトリックだけでシーズン全体を予測することはできず、相手との力関係や試合展開も考慮する必要がある。
それでも、昨季ブンデスリーガ25試合で4得点だった鈴木が、新シーズン最初の80分で3得点を奪った事実は重い。
今季の焦点は、この爆発を一夜の出来事で終わらせないことだ。
トップ下として試合を作りながら、マタノヴィッチの周囲からゴール前へ入り、自らフィニッシュする。
その形を継続できれば、昨季とは違う鈴木唯人がブンデスリーガで見られる可能性がある。
歴史的なハットトリックは、ゴールではなくスタートなのかもしれない。

