堂安律のサウジアラビア移籍が一気に現実味を帯びてきた。アル・イテハドがアイントラハト・フランクフルトに約1800万ユーロの正式オファーを提示したと報じられ、本人も移籍を前向きに検討しているという。ただしクラブ間合意には至っておらず、アディ・ヒュッター監督は放出に反対している。
アル・イテハドが堂安律に約1800万ユーロを提示
堂安を巡る移籍話が具体化したのは、移籍市場閉幕が迫った8月下旬である。
当初、サウジアラビアのアル・イテハドが堂安を獲得候補としてリストアップしたと現地で報じられた。そこから事態は急速に進み、ドイツのSky Sportによれば堂安側とアル・イテハドの間で交渉が開始された。さらに8月28日には、アル・イテハドからフランクフルトへ約1800万ユーロのオファーが提示されたと報じられている。
重要なのは、現時点ではまだ「移籍決定」ではないことだ。クラブ間の最終合意はなく、フランクフルトが正式に堂安の退団を認めたわけでもない。
一方で、堂安自身はサウジアラビアへの移籍を前向きに検討しているとされる。報道ではアル・イテハドが堂安に最大で手取り年俸900万ユーロ規模の条件を提示する可能性も伝えられており、28歳という年齢を考えればキャリアでも最大級の契約になる可能性がある。
単なる関心報道だった段階から、選手との交渉、そしてクラブへの具体的なオファーという段階まで進んだ。残された移籍市場の時間を考えても、ここから数日間で結論が出る可能性は高い。
なぜアル・イテハドは堂安を狙うのか
アル・イテハドが堂安を狙う最大の理由は、ムサ・ディアビの後継者探しである。
ディアビはアル・イテハドを離れ、古巣バイエル・レバークーゼンへ戻る方向で交渉が進展。Sky Sportはクラブ間で3000万ユーロ弱の移籍金について口頭合意したと報じていた。アル・イテハドは、その空いた攻撃陣のポジションを埋める選手を探している。
そこで浮上したのが堂安だった。
堂安は右サイドを主戦場としながら、中央へ入って左足でゲームに関与できる。単純に縦へ突破するだけのウインガーではなく、ボール保持局面では攻撃的MFのようにも振る舞える選手である。ディアビとは特徴が完全に同じではないが、右側から攻撃の違いを作れるという点では補強方針に合う。
さらに、アル・イテハドを率いるイェンス・ヴィッシング監督と堂安の間には接点がある。ヴィッシングは堂安がPSVに所属していた時代のスタッフと関係があり、堂安を以前から把握している人物だと現地では伝えられている。ヴィッシングにはガンバ大阪での指導経験もある。
つまり今回のオファーは、名前だけを見て突然持ち上がった補強ではない。ディアビ退団という明確なチーム事情があり、その穴を埋められる選手として堂安が選ばれている。
ヒュッター監督は放出に反対「絶対的なトップ選手」
一方、フランクフルト側には堂安を手放したくない理由がある。
ヒュッター監督は堂安の移籍について、退団を望んでいない考えを明確にしている。さらに堂安を「絶対的なトップクラスの選手」と高く評価したうえで、移籍市場が開いている限り監督だけですべてをコントロールできるわけではないという認識も示した。
その発言は、現在のフランクフルトにおける堂安の立場をよく表している。
2025-26シーズン終了直後であれば、堂安の売却はそれほど意外ではなかった。昨季途中には当時のアルベルト・リエラ監督の戦術と堂安の特徴が噛み合わず、Sky Sportが本人の移籍希望まで報じた時期がある。中央での起用が増えた一方で、堂安自身は右サイドからプレーする方が持ち味を発揮しやすいと考えていたとされた。
ところが、ヒュッター就任によって状況が変化した。
新監督はプレシーズンから堂安を積極的に起用。4-2-2-2のシステムで、カン・ウズンとともに2人の攻撃的MFの一角を任せている。幅を取って右サイドに張り続けるのではなく、内側へ入りながらボールを受け、前線と中盤をつなぐ役割だ。
トラブゾンスポルとのプレシーズンマッチでも先発し、ウーゴ・ラーションの得点をアシストした。昨季苦しんだ堂安にとって、ヒュッター体制は再スタートを切る絶好の環境になりつつあった。
だからこそ、監督がここで放出に反対するのは自然である。
昨季は40試合7得点6アシスト 期待を下回ったのか
堂安は2025年夏、SCフライブルクからフランクフルトへ加入した。クラブ公式によれば契約は2030年6月まで。移籍金は約2100万ユーロ規模と報じられており、決して小さな投資ではなかった。
2025-26シーズンの成績は公式戦40試合7得点6アシスト。ブンデスリーガでは31試合5得点5アシスト、DFBポカールでは2試合2得点、チャンピオンズリーグでは7試合1アシストだった。
数字だけを見れば、大失敗だったとは言いにくい。
公式戦で13得点に直接関与しており、ブンデスリーガでも二桁の得点関与を記録した。ただし、フライブルク最終年の堂安はリーグ34試合で10得点を挙げていた。2000万ユーロを超える移籍金で迎えられた選手としては、フランクフルトで攻撃の絶対的な中心になることを期待されていたはずである。
そう考えると、「結果を残せなかった」というより、「期待されたほどチームの中心にはなれなかった」という表現の方が近い。
しかも契約はまだ4年近く残っている。フランクフルトが急いで売却しなければならない契約状況ではない。
1800万ユーロではフランクフルトに利益が出ない
今回の移籍交渉で最も興味深いのが移籍金である。
報道通りなら、アル・イテハドの最初の提示額は約1800万ユーロ。フランクフルトが2025年夏に堂安獲得へ約2100万ユーロを投じたとすれば、単純な移籍金の比較では約300万ユーロのマイナスになる。
通常、サウジアラビアのクラブから主力選手にオファーが届けば、欧州クラブ側は市場価格以上の売却益を期待する。まして堂安には2030年までの契約がある。フランクフルトが1800万ユーロですぐに売却へ傾くとは考えにくい。
実際、8月28日時点でもクラブ間の最終合意は成立していない。ヒュッター監督も放出を認めておらず、フランクフルト側が条件改善を求める余地は十分にある。
ただし、フランクフルトには別の事情もある。
クラブは今夏、さらなる補強を進めるうえで移籍収入を必要としていると現地で報じられている。中盤にはカン・ウズン、ウーゴ・ラーション、ファレス・チャイビ、マリオ・ゲッツェ、ジャン・マテオ・バオヤら複数の選択肢がある一方、守備や前線にはまだ補強余地が残る。堂安を売却して資金と登録枠を動かすことには、チーム編成上の合理性もある。
スポーツ面では残したい。しかし編成全体を考えれば売却も選択肢になる。この二つの事情が、現在のフランクフルトの難しい立場を作っている。
堂安本人にとってもキャリア最大級の分岐点
堂安にとって今回の話が特別なのは、すでに一度サウジアラビアからの誘いを断ったと報じられていることだ。
2025年夏にはクリスティアーノ・ロナウドを擁するアル・ナスルからオファーがあったと現地では伝えられた。しかし当時の堂安はフランクフルトを選択した。チャンピオンズリーグでプレーできることに加え、2026年ワールドカップを控える状況で欧州を離れたくなかったことが背景にあったという。
そこから1年が経過した。
現在28歳の堂安にとって、次の契約はキャリアでも非常に重要な意味を持つ。欧州5大リーグでさらに評価を高める道を選ぶのか、それとも高額な条件が提示されるサウジ・プロリーグへ移るのか。
報じられている手取り年俸900万ユーロが事実なら、経済的には無視できない条件である。しかもアル・イテハド側には堂安を必要とする明確な理由があり、控え要員として獲得するわけではない。
一方でフランクフルトに残れば、ヒュッターという自分を高く評価する監督の下でブンデスリーガを戦える。プレシーズンを見る限り、昨季より重要な役割を任される可能性も十分にある。
金銭面だけで簡単に結論を出せる移籍ではない。
開幕戦欠場は移籍が理由ではない
移籍報道が過熱するなか、堂安が8月29日のウニオン・ベルリンとのブンデスリーガ開幕戦を欠場することも決まっている。
ただし、この欠場を移籍と直接結びつけるべきではない。
ヒュッター監督によれば、堂安は筋肉系に軽い問題を抱えており、ウーゴ・ラーションとともに通常のチームトレーニングを外れてランニングを行っていた。フランクフルトは堂安、ラーション、アンスガー・クナウフを欠いて開幕戦に臨む予定である。
移籍交渉が行われている時期と欠場が重なったため憶測を呼びやすいが、現時点で「移籍成立が近いためメンバーから外された」とする根拠はない。
この点は明確に分けて考える必要がある。
堂安の移籍は成立するのか 鍵はフランクフルトの判断
現状を見る限り、堂安のアル・イテハド移籍は十分に成立する可能性がある。ただし、まだ決定的な段階ではない。
アル・イテハドは約1800万ユーロの正式オファーを提示したと報じられ、堂安本人も移籍を前向きに検討している。ディアビの後継者を探すサウジ側には獲得を急ぐ理由もある。
一方で最大の障害はフランクフルトである。
堂安は2030年まで契約を残し、ヒュッター監督は新シーズンの重要戦力として計算している。しかも1800万ユーロでは、1年前の獲得額を下回る可能性が高い。フランクフルトがその条件を受け入れるのであれば、単純な移籍金以上の編成上のメリットが必要になる。
今後のポイントは、アル・イテハドがオファーを引き上げるのか、フランクフルトが監督の希望より売却益や補強資金を優先するのか、そして堂安本人が最終的にサウジ移籍を選択するのかという3点である。
昨季終了時には退団の可能性が取り沙汰されながら、ヒュッター就任によって再び重要選手となった堂安。その矢先に届いた大型オファーによって、状況は再び変わった。
移籍市場閉幕直前、堂安律のキャリアは大きな分岐点を迎えている。

