FC町田ゼルビアの中山雄太が、セルビア王者レッドスター・ベオグラードへの移籍に近づいている。現地では移籍金110万ユーロ(約2億円)で合意したと報じられており、29歳の日本代表DFは約2年ぶりに欧州へ戻ることになりそうだ。
中山雄太、レッドスター移籍で合意と現地報道
セルビアの複数メディアは8月24日、FC町田ゼルビアに所属する中山雄太について、レッドスター・ベオグラードへの移籍で合意に達したと報じた。
移籍金は110万ユーロ。現在の為替では約2億円に相当し、レッドスターから町田へ3回に分けて支払われるという。中山はメディカルチェックを経て正式契約へ進み、現地では早ければ8月25日にも新加入選手として発表される可能性が伝えられている。
『Sportal』などでは3年契約になるとも報じられている。現地報道のトーンはすでに「関心」や「交渉中」ではなく、クラブ間で条件がまとまった段階まで進んでいる。
ただし、8月24日22時台の時点では町田、レッドスター双方から中山の移籍について正式発表は確認されていない。したがって現段階では「移籍決定」ではなく、「合意したと現地で報じられている」と整理する必要がある。
開幕3試合フル出場、好調町田の主力が欧州へ
今回の移籍がより印象的なのは、中山が町田で出場機会を失っていたわけではない点だ。
2026/27シーズンのJ1リーグでは、開幕からFC東京、ジェフユナイテッド千葉、浦和レッズとの3試合すべてに先発し、いずれも90分間プレーしている。千葉戦ではゴールも記録し、開幕3試合で1得点2アシストという数字を残している。
町田もFC東京に5-1、千葉に4-0、浦和に3-1で勝利。開幕から3連勝と好スタートを切った。その中心にいたのが中山である。
つまり今回の移籍は、Jリーグで序列を落とした選手が出場機会を求めて海外へ向かうケースではない。国内で結果を残しているチームの主力が、シーズン開幕直後に再び欧州を選ぶ形となる。
中山は今季も背番号19を着用し、町田のDF登録選手としてプレーしていた。8月22日にはクラブ公式サイトが中山のメディア出演を告知しており、少なくともその時点では通常通り町田の選手として活動していた。そこからわずか数日で、一気に移籍成立へ近づいた格好だ。
29歳で約2年ぶりの欧州復帰
中山にとってレッドスター移籍が実現すれば、約2年ぶりの欧州復帰となる。
柏レイソルのアカデミーで育ち、2015年にトップチームへ昇格。2019年にはオランダのPECズヴォレへ完全移籍し、2022年夏にはイングランドのハダースフィールド・タウンへ加入した。
しかし、2022年カタール・ワールドカップを目前にしてアキレス腱を負傷。日本代表メンバー入りが有力視されていた中で大会出場を断念することになり、その後のキャリアにも大きな影響を与えた。
2024年夏にはハダースフィールドを離れ、町田へ完全移籍。加入時にはクラブを通じて「優勝するためにここに来た」とコメントしていた。
日本復帰後はセンターバックだけでなく、左サイドやボランチでもプレー。2025年には町田の天皇杯制覇にも貢献するなど、再び安定して試合に出場できる環境を築いてきた。
その中で届いたセルビア王者からのオファーである。
29歳という年齢を考えれば、若手選手が将来への投資として欧州へ渡る移籍とは意味合いが違う。すでに欧州での経験があり、日本代表でも22試合に出場している選手が、キャリアの完成期に改めて欧州カップ戦を狙えるクラブを選ぶ移籍になる。
レッドスターが評価した「左利きの万能性」
レッドスターが中山に目を向けた背景には、そのポジション適性がある。
中山は本職のセンターバックに加え、左サイドバックや守備的MFでもプレーできる。町田でもボランチで起用された経験があり、左足からの縦パスやロングフィードを使って攻撃のスタート地点になることができる。
現地では、新監督アルベルト・リエラとクラブ幹部マルコ・マリンが中山の獲得を望んでいたと報じられている。
重要なのは、単純に「複数ポジションを守れるから便利」という話だけではない。
左利きのセンターバックは、後方からボールを動かすチームにとって配置上の価値が高い。左CBからタッチライン側だけでなく中央へボールを差し込むことができれば、相手のプレス方向を変えやすくなる。
さらに中山の場合は中盤でもプレーできるため、保持時には最終ラインから一列前へ出るような役割にも対応できる。
昨季の町田でも、CBとボランチを行き来しながらプレーした。守備力だけでなく、後方の組み立てに参加できることがレッドスター側から評価されたと考えるのが自然だ。
新監督リエラのチーム再編に組み込まれる可能性
レッドスターは現在、大きなチーム再編の途中にある。
8月にはアルベルト・リエラが新監督に就任。就任後にはバンバ・ディエングやミハイロ・リスティッチらを加え、中山も新体制で進められている補強の一人として現地で報じられている。
その点は中山にとって重要だ。
一般的に監督交代前に獲得された選手は、新監督の構想から外れるリスクがある。一方で今回の中山は、現地報道が正しければリエラ体制になってから具体的に進められた補強であり、新監督のプレーモデルを前提として獲得されることになる。
もちろん加入すれば即レギュラーが保証されるわけではない。
レッドスターにはセルビア代表経験を持つミロシュ・ヴェリコヴィッチをはじめ複数のセンターバックがおり、国内王者だけに競争は激しい。
それでも左利きであり、センターバックと守備的MFを行き来できる中山には、他のDFとは異なる特徴がある。リエラが後方からボールを保持するサッカーを志向するのであれば、起用方法次第では重要な存在になる可能性がある。
国内9連覇のセルビア王者、評価されるのは欧州での結果
移籍先となるレッドスターは、セルビア最大級の名門クラブである。
2025/26シーズンも国内リーグを制し、9シーズン連続の優勝を達成。通算優勝回数も30回を大きく超えており、国内では圧倒的な存在である。
そのため、クラブにとって国内優勝は最大目標というより「達成して当然」に近い。
選手や監督が本当に評価される舞台の一つが欧州カップ戦だ。
今季はUEFAチャンピオンズリーグ予選でハポエル・ベエルシェバに敗れ、CL本戦への道は途絶えた。一方でUEFAヨーロッパリーグのプレーオフへ回っており、ヴィクトリア・プルゼニとの第1戦では3-0で勝利。本戦進出へ大きく前進している。
中山が加入した場合、セルビア国内リーグだけでなく、ヨーロッパリーグでプレーするチャンスも見えてくる。
日本代表への再定着を目指すうえでも、欧州カップ戦でどのレベルの相手に対してパフォーマンスを出せるかは一つの評価材料になるだろう。
町田にとっては戦力面で小さくない流出
一方、町田にとって中山の移籍は簡単に埋められる穴ではない。
2026/27シーズンの町田には昌子源、ドレシェヴィッチ、菊池ダビド流帆、岡村大八ら複数のセンターバックが在籍しており、純粋な人数だけを見れば選択肢はある。
ただ、中山の価値はCBの一枠だけではなかった。
左足でボールを前進させられ、必要に応じてボランチにも入り、セットプレーでも存在感を発揮できる。複数の役割を一人で担えるため、中山がいれば試合途中に選手交代をせず配置を変更することもできる。
昨季には町田のファン投票による月間MZPに選ばれた際も、ボランチとCBの双方での安定したプレーが評価されていた。クラブ内でも単なるセンターバック以上の役割を持っていたことが分かる。
開幕3連勝と勢いに乗る時期にその選択肢を失うことになるため、黒田剛監督が最終ラインと中盤の組み合わせをどう再構成するかは今後のポイントになる。
レッドスター移籍は中山のキャリアで大きな再挑戦に
中山は欧州でプレーした経験を持つ一方、カタールW杯直前の大けがを含め、必ずしもキャリアが順調に進んできたわけではない。
その中で日本へ戻り、町田で再び主力として安定した出場機会を得た。2026/27シーズンも開幕から結果を残し、その状態で再び欧州のクラブから求められている。
しかも移籍先は、国内タイトルを毎年争い、欧州カップ戦への出場を目指すレッドスターである。
29歳での移籍だけに、将来性ではなく即戦力として評価されなければポジションは得られない。だからこそ今回の移籍は、中山にとってキャリアの中でも大きな勝負になる。
現時点では両クラブから正式発表は出ていないものの、現地では110万ユーロでの合意が相次いで報じられ、正式契約は目前とみられている。
J1開幕3試合で1得点2アシストを記録した町田の主力が、セルビア王者でどのポジションをつかむのか。約2年ぶりとなる中山雄太の欧州再挑戦が、いよいよ現実味を帯びてきた。

