小杉啓太がフランクフルトで鮮烈な公式戦デビューを飾った。DFBポカール1回戦で先発フル出場し、左サイドから3アシスト。チームはザンクト・トニスを11-0で圧倒した。一方、日本代表MF堂安律はベンチ外となったが、その理由は序列ではなくコンディション面にあった。
小杉が先発、フランクフルトは前半だけで10得点
フランクフルトは8月21日、DFBポカール1回戦で5部オーバーリーガに所属するSCザンクト・トニスと対戦した。
試合はカテゴリーの差がそのままスコアに表れる展開となった。
開始4分にヨナタン・ブルカルトが先制。10分にはロビン・コッホ、17分にはアユーブ・アマイモウニが続き、早い段階で3-0とした。
その後も攻撃の手は緩まない。29分にブルカルト、34分と36分にジャン・ウズン、41分には再びブルカルトが決めてハットトリックを達成。44分のエリアス・バウム、45+1分のユネス・エブヌタリブ、45+5分のマリオ・ゲッツェまで続き、前半だけで10-0となった。
後半は大量リードもあって得点ペースが落ちたものの、87分にファレス・シャイビが11点目。フランクフルトが11-0で2回戦進出を決めた。クラブ公式記録でも、前半終了時点で10-0という異例のスコアになったことが確認できる。
現地紙『Frankfurter Rundschau』によれば、前半10-0はDFBポカール史上初のハーフタイムスコアで、11-0はフランクフルトにとって同大会でのクラブ史上最大差勝利となった。
その歴史的大勝の中で、日本のサッカーファンにとって最も注目すべき存在となったのが小杉である。
小杉啓太が公式戦デビューで3アシスト
20歳の小杉は4バックの左サイドバックで先発し、90分間プレーした。
まず存在感を示したのが29分だ。左サイドから供給したボールをブルカルトが仕留め、小杉に公式戦初アシストが記録された。
続く34分には再び左サイドから攻撃に関与し、ウズンのゴールをお膳立て。さらに前半アディショナルタイムの45+5分、ゲッツェが決めた10点目も小杉のアシストだった。
フランクフルト公式の試合記録にも29分、34分、45+5分の3得点で小杉のアシストが記録されている。公式戦デビューでいきなり3アシストという結果を残した形だ。
もちろん、相手が5部クラブだったという条件は考慮しなければならない。
それでも重要なのは、単純に数字が3だったことだけではない。左サイドバックとして高い位置を取り、攻撃の幅を作りながら、ゴールにつながる最後のボールまで担当できたことだ。
フランクフルトがボールを支配する時間が長かったからこそ、小杉には守備以上に攻撃参加の質が求められた。その状況で結果を残せたことは、今後のポジション争いを考える上でも意味がある。
昨季公式戦出場ゼロ、小杉に訪れた大きなチャンス
小杉は2026年1月、スウェーデンのユールゴーデンからフランクフルトへ加入した。
ユールゴーデンでは加入直後から主力となり、国内リーグ、カップ戦、UEFAカンファレンスリーグを合わせて62試合に出場。5得点7アシストを記録していた。
2024-25シーズンのカンファレンスリーグでは準決勝進出にも貢献しており、欧州でまったく実績がなかった選手ではない。
フランクフルトのスポーツディレクター、ティモ・ハルドゥングも獲得時、小杉についてボールを扱う技術だけでなく、広い範囲をカバーできる運動量や高いワークレートを評価していた。
ただ、ドイツへ渡ってからすぐにトップチームで出番を得られたわけではなかった。
2025-26シーズン後半はフランクフルトの公式戦に出場できず、半年間は新しい環境への適応と競争に費やした。
それだけに今回の一戦は大きい。
新シーズン最初の公式戦で先発を任され、そのチャンスを3アシストという分かりやすい数字に変えた。小杉にとっては、単なるカップ戦1試合以上の意味を持つ90分だったと言える。
ヒュッター新体制で変わり始めた小杉の立場
小杉を巡る状況が変わってきた背景には、今夏の監督交代もある。
アディ・ヒュッターがフランクフルトの指揮官に復帰して以降、小杉はプレシーズンからトップチームで継続的に起用されてきた。
小杉自身も7月のクラブ公式インタビューで、新シーズンについてフランクフルトでデビューし、先発候補として自分をアピールすることを目標に挙げていた。
今回、その最初の目標を達成したことになる。
ここで重要なのは、ザンクト・トニス戦だけ突然先発したわけではないという点だ。
プレシーズンを通じて小杉は左サイドでテストされており、新体制の中で一定の評価を受けた上で公式戦初戦のスターティングメンバーに入った。
つまり11-0の試合だけを切り取って小杉が一気にレギュラーになったと見るのも正確ではないが、レギュラー候補として競争に加わっていると評価できるだけの流れはすでに存在していた。
その上での3アシストである。
ヒュッターに対するアピールとしては、これ以上ないスタートだった。
0-7惨敗から6日、小杉を再び先発させた意味
今回の結果を考える上でもう一つ興味深いのが、その6日前に行われたブレントフォード戦である。
フランクフルトはプレシーズン最後のテストマッチで、プレミアリーグのブレントフォードに0-7という衝撃的な大敗を喫していた。
小杉もその試合で左サイドバックとして先発している。
当然ながらチーム全体の守備が崩れた試合であり、小杉一人に責任を求められる内容ではなかったが、若手にとって0-7という結果は決して軽いものではない。
それでもヒュッターは、次の公式戦で再び小杉を先発させた。
これは少なくとも、ブレントフォード戦だけを理由に小杉の評価を大きく下げてはいなかったことを示している。
そして小杉もその信頼に結果で応えた。
ただし、ブレントフォード戦とザンクト・トニス戦を並べれば、小杉が次に証明しなければならない部分も明確になる。
5部相手に押し込む展開では攻撃力を発揮できた。次に問われるのは、ブンデスリーガレベルの相手に対して、背後のスペース管理や1対1、切り替えの局面でも安定したプレーができるかどうかである。
3アシストはスタート地点として申し分ない。しかし左サイドバックのレギュラーを勝ち取るには、守備面を含めた評価が必要になる。
堂安律のベンチ外は序列が理由ではない
一方、もう一人の日本代表選手、堂安律はザンクト・トニス戦のメンバーに入らなかった。
ここは小杉の活躍とは分けて考える必要がある。
現地紙『Frankfurter Rundschau』は試合前、堂安とウーゴ・ラーションが筋肉系の問題を抱えて欠場すると報じている。つまり、少なくとも現時点で確認できる情報では、堂安が戦術的な理由でベンチ外になったわけではない。
堂安はフランクフルトの攻撃を担う重要な選手であり、今回のメンバー外をそのまま序列低下と結びつける根拠はない。
一方で、新シーズン最初の公式戦を欠場した以上、今後はコンディションがどこまで回復するかが焦点となる。
現時点では長期離脱を示す情報は確認されていないため、復帰時期について断定する段階ではない。
日本人選手という点では同じでも、小杉の先発と堂安の欠場には直接的な因果関係はない。今回の試合では、堂安が不在だったフランクフルトで、もう一人の日本人である小杉が存在感を示したと整理するのが適切だろう。
11-0を過大評価せず、それでも3アシストは大きい
フランクフルトの11-0という結果は強烈だが、この試合だけでチームの完成度を判断することはできない。
相手は5部であり、ブンデスリーガで対戦するクラブとはプレッシャーの強度も、攻守の切り替えも、個々の能力も大きく異なる。
現地でもこの点については冷静な見方がある。
11-0という歴史的大勝は歓迎される一方、ブレントフォードに0-7で敗れた問題が一夜ですべて解消したわけではない。フランクフルトにとって本当の評価はリーグ戦が始まってからになる。
小杉についても同様だ。
ザンクト・トニス戦の3アシストだけでブンデスリーガのレギュラー確定とするのは早すぎる。
しかし、昨季公式戦出場ゼロだった20歳の選手が、新監督の下でプレシーズンから起用され続け、公式戦初戦で先発フル出場、さらに3アシストを記録した。
この流れまで過小評価する必要もない。
左サイドバックは攻撃参加だけでなく、守備時には相手ウイングとの1対1やカウンターへの対応も要求されるポジションである。今後より強い相手との試合でそこをクリアできれば、小杉は単なる将来への投資ではなく、今季のトップチームにおける現実的な戦力になっていく。
次はブンデスリーガ、小杉の本当の勝負が始まる
小杉にとって、DFBポカールでの3アシストは大きな一歩である。
ユールゴーデンでは欧州大会も経験したが、ブンデスリーガというさらに高いレベルでポジションを確保できるかは別の挑戦だ。
公式戦初戦で結果を残したことで、少なくともヒュッター監督に次のチャンスを与える理由は作った。
そして今後は、相手を押し込めない試合でどのようなプレーを見せるかが重要になる。守備の時間が増えた時にも安定できるのか。攻撃参加とリスク管理を両立できるのか。ブンデスリーガで先発できれば、その評価は一段階変わる。
堂安がコンディションを整えて復帰すれば、フランクフルトでは2人の日本人がトップチームで重要な役割を担う可能性もある。
11-0という歴史的な夜で、最も大きな一歩を踏み出した一人が小杉だったことは間違いない。
昨季出場ゼロから公式戦デビュー、そして3アシスト。
小杉啓太のフランクフルトでの本当の勝負は、ここから始まる。

