シント=トロイデンVV(STVV)の谷口彰悟が、UEFAヨーロッパリーグ(EL)プレーオフで劇的な決勝ゴールを奪った。35歳の日本代表DFが試合終了間際にネットを揺らし、STVVはオモニアとの第1戦を1-0で制している。クラブ史上初となるELプレーオフの舞台で、主将が大仕事をやってのけた。
谷口彰悟が90+4分に決勝弾
STVVは現地時間8月20日、ホームでキプロスのオモニアと対戦した。
クラブ公式によると、先発にはGK小久保玲央ブライアン、DF谷口彰悟、MF石渡ネルソン、MF松澤海斗の日本人4選手が名を連ねた。谷口と松澤にとっては今季公式戦初先発となった。
試合は簡単には動かなかった。前半は互いに決定機を作り切れず0-0。後半に入るとオモニアの攻撃を受ける時間もあり、56分、58分には立て続けにピンチを迎えたが、小久保を中心に耐えた。
STVVも終盤になるにつれて攻撃の圧力を高める。75分にはサメド・バジュダルが決定的なシュートを放ったものの、相手GKに阻まれた。このままスコアレスドローかと思われた90+4分、ついに試合が動く。
右サイドからライアン・メルランがクロスを送ると、前線まで上がっていた谷口がゴール前へ飛び込む。体を投げ出しながら右足で合わせ、ボールをゴールへ押し込んだ。
直後に試合は終了。STVVが1-0で第1戦を制した。公式記録でも谷口の得点は90+4分となっている。
「常に狙っていた」偶然ではなかった攻撃参加
センターバックが後半アディショナルタイムに相手ゴール前へ入り込み、決勝点を奪う。派手な場面ではあるが、谷口の説明を聞けば、このゴールが単なる偶然ではなかったことも分かる。
試合後、谷口はセットプレーについて「常に狙ってました」と振り返っている。
セットプレーからゴール前が混戦になった際、空いたスペースを確認しながら、飛び込むタイミングを待っていたという。そして狙っていた場所へボールが入り、最後は右足でねじ込んだ。
ポイントは、最初のセットプレーが終わったからといって谷口がすぐに最終ラインまで戻らなかったことである。
試合終了直前であり、同点の状況。引き分けで第1戦を終えるのか、それともリスクを取って1点を奪いに行くのか。谷口は後者を選んだ。
センターバックが攻撃参加を続ければ、その背後には当然スペースが生まれる。しかし残り時間を考えれば、ここで1点を取る価値は極めて大きかった。
そして谷口は、ただゴール前に立っていたわけではない。相手DFがボールへ意識を向けた瞬間にスペースへ入り、メルランのクロスへ合わせた。
長年センターバックとして試合を読んできた経験が、攻撃面でも表れたゴールだったと言える。
守備でも存在感、今季初先発でフル稼働
決勝ゴールだけを見れば「DF谷口が劇的弾」という試合だが、その前の90分近くにも重要な仕事があった。
STVV公式は、後半にオモニアのペースとなった時間帯でも谷口がしっかりと対応していたと伝えている。特に後半立ち上がりは相手に押し込まれ、小久保のセーブも必要になる展開だった。
そこで失点していれば、終盤の戦い方はまったく違ったものになっていた。
つまり谷口は、センターバックとして無失点に貢献したうえで、最後には自ら決勝点を奪ったことになる。
しかも今季のリーグ開幕後、谷口はここまで先発ではなく、今回が公式戦初スタメンだった。前節のサークル・ブルージュ戦では終盤から途中出場していたが、ELプレーオフという重要な一戦で先発へ戻ると、結果で起用に応えた。
クラブにとっても、谷口の存在価値を改めて確認する試合になったはずだ。
35歳で再契約、STVVが求めた「キャプテン」
今回のゴールをより印象的なものにしているのが、谷口の今夏の状況である。
谷口は2025-26シーズン終了後にいったんSTVVとの契約期間を終えたが、クラブは7月28日に再契約を正式発表した。
再契約時、立石敬之CEOは谷口を「私たちのキャプテン」と表現し、欧州大会を戦うシーズンに向けて、その残留が大きな力になるとの考えを示していた。
谷口自身も、STVVには多くの挑戦が待っているシーズンになるとしたうえで、チームの勝利に貢献したいとコメントしている。
その言葉から1カ月も経たないうちに訪れたELプレーオフ。
しかも谷口は、クラブ史上初となるこの舞台の第1戦で決勝点を奪った。
もちろん1試合のゴールだけで再契約の成否を評価することはできない。しかし、大舞台で落ち着いて守備陣を支え、勝負どころでは前線まで上がって試合を決めるという働きは、STVVが経験豊富な35歳のセンターバックを残した理由を象徴している。
若い選手が多いチームにとって、こうした試合を知るベテランの存在は数字だけでは測れない。
アキレス腱断裂から戻った谷口の現在地
谷口のキャリアを振り返れば、今回のゴールにはさらに重みが加わる。
2024年11月、谷口は左アキレス腱を断裂した。
当時33歳。サッカー選手にとって大きな負傷であり、年齢を考えても簡単な復帰ではなかった。本人も後にJFAのインタビューで、当初は歩くことすら難しく、「どうやったら復活できるのか」と不安を感じていたことを明かしている。
それでもリハビリを続け、2025年5月にSTVVで公式戦復帰。その後は徐々に出場時間を増やし、同年10月には約1年ぶりに日本代表へ復帰した。
ブラジル代表との一戦では3バックの中央を務め、日本がブラジルから史上初勝利を挙げた試合にも先発している。
大ケガから復帰するだけでも難しい。そこから再び代表レベルまでコンディションを戻し、さらに35歳となった現在も欧州クラブの主将としてEL出場を争っている。
今回の得点は、その復活の先にあるゴールである。
特にセンターバックは経験が生きるポジションとはいえ、ベルギーリーグや欧州大会で求められる強度に対応し続けなければ試合には出られない。谷口の場合、判断力やリーダーシップだけでなく、身体的にもトップレベルの競争へ戻っていることが大きい。
STVVにとって歴史的な欧州挑戦
谷口個人だけでなく、STVVにとっても今季のヨーロッパリーグ挑戦は特別である。
2025-26シーズン、STVVはベルギーリーグで上位争いを続け、16シーズンぶりに上位6クラブによるプレーオフ1へ進出。最終的に3位となり、2026-27シーズンのEL予選プレーオフ出場権を獲得した。
DMM.comが2017年に経営権を取得して以降では初めての欧州大会挑戦となる。クラブ公式も今回のオモニア戦を「クラブ史上初のUEFAヨーロッパリーグ・プレーオフ第1戦」と位置づけている。
近年のSTVVは日本人選手が欧州へ挑戦する入り口として知られてきたが、今季はクラブそのものが欧州大会へ進出する立場になった。
オモニア戦でも小久保、石渡、谷口、松澤が先発。途中から荒木遼太郎も出場し、日本人5選手がピッチに立った。
日本人選手を積極的に獲得するクラブという段階から、日本人選手たちが実際に欧州カップ戦で結果を求められる段階へ進んでいるとも言える。
その歴史的な最初の一戦を決めたのが、チーム最年長クラスの谷口だったことは象徴的である。
1点リードで敵地へ、まだ突破は決まっていない
ただし、STVVのELリーグフェーズ進出が決まったわけではない。
プレーオフはホーム&アウェイの2試合で争われる。第2戦は日本時間8月28日午前2時、オモニアのホームで開催される予定だ。
1-0という結果はSTVVにとって大きい。第2戦では開始時点から1点のアドバンテージを持って戦えるためだ。
一方、今回の試合ではオモニアに押し込まれる時間もあり、1点を守るだけで90分を乗り切ろうとすれば難しい展開になる可能性がある。
特に敵地ではオモニアがより積極的に前へ出てくることが予想される。そこでSTVVが自陣へ下がり過ぎれば、谷口を中心とした最終ラインにかかる負担は増える。
ボールを保持する時間を作り、相手が前へ出てきた背後を狙って追加点を奪えるか。守備だけではなく、攻撃面で相手に警戒を与え続けることも重要になる。
谷口のゴールによってSTVVは確かに一歩前へ出た。
2024年のアキレス腱断裂を乗り越え、35歳でSTVVと再契約し、クラブ史上初のELプレーオフで決勝点を奪う。谷口自身にとっても、クラブにとっても記憶に残る一夜となった。
だが、本当のゴールはリーグフェーズ進出である。
次はキプロスでの第2戦。谷口が守備の中心として1点のリードを守り、STVVを次のステージへ導けるかが注目される。

