W杯2026で日本代表を率いた森保一監督の成績は、成功とも失敗とも単純には言い切れない。グループFを無敗で突破し、ブラジルを最後まで追い詰めたことは成果である。一方、掲げていたベスト8以上、さらに「世界一」という目標には届かず、日本はまたしてもノックアウトステージ初戦で敗れた。最終評価は「内容面で前進したが、結果は明確な目標未達」とするのが妥当である。
1勝2分け1敗をどう見るべきか
日本の大会成績は1勝2分け1敗、8得点5失点だった。オランダとの初戦は2度リードされながら2-2に追いつき、第2戦ではチュニジアを4-0で圧倒。スウェーデンとの最終戦は前田大然の得点で先制したものの、アンソニー・エランガに同点弾を許して1-1に終わった。
勝ち点5でグループ2位となり、ラウンド32でブラジルと対戦。佐野海舟の得点で先制したが、後半にカゼミーロ、終了間際にガブリエウ・マルティネッリに決められ、1-2で敗退した。
数字だけを見れば、世界大会で無敗のままグループを突破したことは評価できる。オランダ、スウェーデンという欧州勢を相手に勝ち点を取り、チュニジア戦では日本のワールドカップ史上最多となる1試合4得点を記録した。4試合で8得点という攻撃面の数字も、日本が守備一辺倒のチームではなくなったことを示している。
ただし、勝利は監督交代直後のチュニジアから挙げた1勝だけである。オランダ戦の追い上げやブラジル戦の善戦を高く評価しても、強豪国を本大会で倒したわけではない。成績評価では「内容の良い引き分け」や「惜しい敗戦」と、実際に勝ち切った結果を分けて考える必要がある。
ラウンド32敗退は2022年より後退なのか
2026年大会は48チーム制となり、12組の各グループから32チームがノックアウトステージへ進んだ。そのため、2022年大会のベスト16と今回のラウンド32を、名称だけで比較するのは適切ではない。大会方式が変わり、グループ突破の意味も変化したからである。
一方で、日本が従来のベスト16に相当する位置へ進むには、今回はグループ突破後にもう1勝する必要があった。日本はブラジルに敗れ、ベスト16には到達していない。したがって、到達ラウンドだけなら2022年を上回っておらず、競技成績としては前進したとは言いにくい。
より重要なのは、日本が2002年、2010年、2018年、2022年、2026年と、ノックアウトステージへ進んだ5大会すべてで初戦敗退となった点である。大会方式が変わっても、「一発勝負を勝ち切れない」という日本サッカーの壁は残った。森保監督の評価も、グループ突破を繰り返したことより、その壁を破れなかった事実を中心に考えるべきである。
負傷者の穴を埋めた大会運営は高評価
森保監督の最大の成果は、主力を欠きながらチームの基本構造を崩さなかったことだ。三笘薫と南野拓実は大会メンバーから外れ、遠藤航も本大会でプレーできなかった。久保建英はオランダ戦で負傷し、その後を欠場した。攻撃の違いを作れる選手、試合を落ち着かせられる主将、局面を変えられる司令塔を同時に失った影響は小さくない。
それでも森保監督は、鎌田大地をボランチとシャドーで使い分け、前田大然を守備強度の高い2列目として起用した。チュニジア戦では先発を入れ替えながら前線からのプレスを機能させ、鎌田、上田綺世、伊東純也らが得点。ブラジル戦では佐野を中盤に置き、ボール奪取から先制点までつなげた。
森保体制では、固定された11人だけに依存せず、異なる組み合わせでも基本的な戦い方を維持することが重視されてきた。W杯2026では、それが一定の形になった。役割を調整しながらグループを突破した点は、選手管理、準備、チーム内競争を含めて評価すべきである。
ブラジル戦の前半は世界上位に通用した
ブラジル戦の前半、日本は5バックで自陣に張り付くのではなく、中盤に守備網を敷くミドルブロックを採用した。中央のパスコースを消し、ボールを奪えば前線へ素早く運ぶ。29分には佐野が横パスを奪い、そのまま持ち上がって先制点を決めた。
この45分間は、森保監督が8年間で作ったチームの強みが凝縮されていた。選手間の距離が近く、誰が前へ出て、誰が背後を埋めるのかが整理されていた。個人能力で上回るブラジルに対し、組織力、運動量、切り替えの速さで対抗したのである。
海外でも日本の前半は高く評価された。日本が長い時間ブラジルを封じたことや、前半のエネルギー、技術、積極性が注目された。日本が強豪国に勝つ可能性を持つチームであることは、親善試合だけでなくワールドカップのノックアウトステージでも示された。
課題は守る力より押し返す力
問題は後半だった。ブラジルは中盤とセンターバックの立ち位置を高くし、両サイドに幅を取ってクロスを増やした。日本はセカンドボールを回収できなくなり、守備位置が自陣深くまで下がった。56分にカゼミーロのヘディングで追いつかれると、その後も攻撃へ移る時間をほとんど作れなかった。
森保監督は66分に菅原由勢と鈴木淳之介、78分に田中碧と町野修斗を投入した。しかし、交代後も前線でボールを収められず、ブラジルの圧力を弱められなかった。守備者を入れ替えて耐えることはできても、ボール保持によって試合を落ち着かせ、相手陣内へ押し返すことができなかったのである。
ここは森保監督の采配だけでなく、日本の選手層の問題でもある。遠藤、久保、三笘、南野がいれば展開が変わった可能性はあるが、出場していない選手を根拠に勝敗を断定することはできない。むしろ世界一を目指すなら、主力数人を欠いても試合の流れを変えられるベンチを用意できるかが問われる。
2018年ベルギー戦、2022年クロアチア戦、2026年ブラジル戦では、日本がいずれも先制しながら突破できなかった。これは精神力の一言で片付けるべき問題ではない。リード後もボールを前進させる技術、相手の修正に対応する戦術、終盤に投入できる選手の質を含む「試合を終わらせる力」の不足である。
「世界一」を掲げた以上、成功とは言えない
森保監督は大会前から、ベスト8を越え、その先の世界一を目標としてきた。高い目標を掲げたこと自体には意味がある。ドイツ、スペイン、ブラジル、イングランドといった強豪を倒してきたことで、日本代表の選手が勝利を現実的に考えられる環境を作ったからだ。
しかし、目標が評価基準として機能しなければ、ただのスローガンになる。ラウンド32で敗れた後に「ブラジルを追い詰めた」「世界との差は縮まった」ことだけで成功とするなら、ベスト8や世界一を掲げた意味は薄れる。内容面の成長は認めつつ、結果は目標未達だったと明確に分ける必要がある。
森保監督は大会後、世界トップの基準へ近づいている感覚がある一方、押し切られる場面に差が残ると認めた。この総括は妥当である。日本は強豪に何もできず敗れたのではない。しかし、強豪を追い詰める段階と、実際に倒して次へ進む段階の間には、まだ明確な距離がある。
最終評価は「成果を残した目標未達」
森保監督のW杯2026を全面的な失敗とするのは厳しすぎる。グループを無敗で突破し、負傷者が続く中でも複数の選手を機能させ、ブラジルに先制して終了間際まで競った。チームの再現性、代替選手の準備、強豪への対抗策には確かな成果があった。
一方、全面的な成功とも言えない。日本は1勝しか挙げられず、ベスト16にも届かず、5度目のノックアウトステージでも初勝利を逃した。8年間の集大成として掲げたベスト8以上、世界一という目標から見れば、結果は明確に不足している。
JFAは森保監督を2027年アジアカップまで続投させ、その後は大岩剛監督に2030年ワールドカップまでを託すと決めた。この人事は公式な成績評価そのものではないが、森保体制の安定性とアジアでの実績を認めながら、次のワールドカップまで同じ体制を継続するのではなく、新しい指揮官へ引き継ぐ判断と読み取れる。
したがって、森保監督のW杯2026は「及第点」ではあるが「成功」ではない。日本を世界上位と互角に戦える位置へ近づけた功績は大きい。ただし、互角に戦うことと勝ち上がることは別である。
森保体制が残した最大の成果は世界との差を縮めたこと、最大の未達は縮めた差を大会結果へ変えられなかったことである。

