2031年までの契約でアトレティコ加入
アトレティコ・マドリードは2026年7月25日、PSGから韓国代表MFイ・ガンインを完全移籍で獲得したと発表した。契約期間は2031年6月30日までの5年間となる。
両クラブは移籍金を公表していない。ロイター通信は、ボーナスを含めて最大4000万ユーロ規模の取引と報じている。アトレティコにとっては、アレハンドロ・グリマルド、モルテン・ヒュルマンドに続く今夏3人目の補強となった。
イ・ガンインはアトレティコ史上初の韓国人選手であり、背番号は7に決まった。かつてアントワーヌ・グリーズマンが背負った番号を引き継ぐことからも、クラブが新加入選手に寄せる期待の大きさが伝わってくる。
ただし、この移籍を単純な「グリーズマンの後継者獲得」と捉えるのは適切ではない。イ・ガンインにはグリーズマンと同じ仕事を再現するのではなく、異なる方法でアトレティコの創造性を補う役割が求められる。
PSGでは124試合出場と12タイトル
イ・ガンインは2023年夏にマジョルカからPSGへ加入した。フランスでの3シーズンでは公式戦124試合に出場し、16得点16アシストを記録。リーグ・アン3回、UEFAチャンピオンズリーグ2回、フランス杯2回など、合計12個のタイトルを獲得した。
2025-26シーズンも公式戦39試合で4得点5アシストを残している。数字だけを見れば、出場機会を失っていた選手ではない。チャンピオンズリーグ連覇を成し遂げたチームの一員として、複数の大会で一定の役割を果たしていた。
一方で、出場試合数の多さとチーム内での重要度は必ずしも一致しない。現地紙『AS』によると、直近のチャンピオンズリーグ決勝トーナメントでは準々決勝での出場が計13分にとどまり、準決勝と決勝では出場機会を得られなかった。最も重要な試合でルイス・エンリケ監督の優先順位に入れなかった事実は、移籍を考える大きな材料になったとみられる。
PSGでのイ・ガンインは、右ウイング、左ウイング、インサイドハーフ、トップ下などを務めた。多機能性は多くの試合に起用される理由となったが、同時に絶対的な定位置を確立しにくい要因にもなった。
今回の移籍は、欧州屈指の戦力を持つクラブから離れる決断である。しかし、キャリアの後退というより、便利なローテーション選手から攻撃の主役へ移るための選択と見るべきだろう。
アトレティコが求めた左利きの創造性
アトレティコにとって、イ・ガンインは今夏になって急浮上した候補ではない。マテウ・アレマニーSDは2026年1月にも獲得に動いたが、当時はPSGが移籍を認めなかったと報じられている。
さらにさかのぼれば、イ・ガンインがマジョルカに所属していた2023年にも獲得候補に挙がっていた。長期的に技術と成長を追跡してきたうえでの補強であり、韓国市場での人気だけを目的とした移籍とは考えにくい。
アトレティコが必要としていたのは、相手の守備が整った状況でも局面を変えられる左利きの選手である。イ・ガンインは狭い場所でボールを保持し、相手を引きつけてから味方へパスを供給できる。左足からのクロスやミドルシュート、セットプレーも武器になる。
ディエゴ・シメオネ監督のチームは、速攻や球際の強さだけで攻撃するわけではない。相手が自陣深くに構えた試合では、守備ブロックの外側でボールを回す時間も増える。その局面で縦パスやドリブルによって守備を動かせる選手は重要である。
グリーズマンと同じ役割ではない
背番号7を受け継いだことで、イ・ガンインにはグリーズマンとの比較がつきまとう。グリーズマンはアトレティコの歴代最多得点者であり、得点だけでなくラストパス、前線からの守備、ボールを受けるための移動まで幅広く担ってきた。
しかし、両者のプレースタイルは異なる。
グリーズマンはボールから離れた状態でスペースを見つけ、ゴール前へ入っていく能力に優れていた。イ・ガンインは足元でボールを受け、左足のキックとドリブルで攻撃を進める場面に強みがある。
そのため、イ・ガンイン一人にグリーズマンの得点力や守備範囲まで引き継がせるのは現実的ではない。アトレティコは失われた役割を複数の選手で分担する必要がある。
イ・ガンインが担うのは、その中でもボール保持時の創造性である。味方の動きに合わせて最後のパスを送るだけでなく、自ら相手を引きつけ、別の選手が使うスペースを作ることが期待される。
右サイドか、中央か
現地では、イ・ガンインの主戦場として右サイドが有力視されている。右から中央へ移動すれば、利き足の左足でゴール方向を向き、シュート、縦パス、クロスを選択できる。
右サイドに配置された場合も、タッチライン際に立ち続ける典型的なウイングになるとは限らない。内側へ入り、サイドバックが前進するためのスペースを空けながら、中央でパス交換に参加する形が考えられる。
もう一つの選択肢がトップ下である。相手の中盤と最終ラインの間でボールを受けられれば、前線の選手へ直接パスを入れられる。アトレティコが2トップを採用する試合では、その後方で攻撃を組み立てる役割も担えるだろう。
中盤3枚の一角で起用される可能性もあるが、その場合は守備面の負担が大きくなる。攻撃時の自由を得るには、ボールを失った直後の切り替えや自陣への帰陣を安定して行う必要がある。
シメオネ体制で問われる守備
イ・ガンインがアトレティコで主力になれるかどうかは、ボールを持った場面だけでは決まらない。
シメオネ監督は、アタッカーにも守備の立ち位置、プレスの開始位置、サイドでの帰陣を細かく要求する。攻撃で好プレーを見せても、守備の約束事を繰り返し外せば先発の座を維持するのは難しい。
イ・ガンインには、この環境へ適応する材料もある。マジョルカ時代にはハビエル・アギーレ監督の下で、守備を重視するチームに所属した。自由にボールを持ち続けるのではなく、組織を崩さずに攻撃へ移る経験を積んでいる。
PSGでは高い位置でボールを持つ時間が長く、周囲にも個人で局面を解決できる選手がそろっていた。アトレティコでは、より長い距離を戻り、相手のサイド攻撃を抑える場面が増える可能性がある。
守備強度を維持しながら攻撃の質を発揮できれば、イ・ガンインの多機能性は再び武器になる。反対に守備面で信頼を得られなければ、PSG時代と同じく途中出場やローテーションでの起用が増える恐れもある。
スペイン復帰が持つ大きな意味
新天地への適応という点では、イ・ガンインは一般的な外国人選手より有利な立場にある。
10歳でバレンシアの下部組織に加入し、17歳でトップチームデビューした。その後マジョルカで主力へ成長し、2022-23シーズンには公式戦39試合6得点6アシストを記録してPSG移籍を実現させた。
スペイン語や文化、ラ・リーガの試合運びをすでに理解しているため、生活面での適応に長い時間を必要としない。PSGでの経験を経て、以前より判断速度や複数ポジションへの対応力も高まっている。
バレンシアでは才能を十分に発揮できず、マジョルカで評価を回復し、PSGではタイトルを獲得した。アトレティコでの挑戦は、スペインで始まったキャリアをより完成された形で証明する機会になる。
商業的価値以上の補強となるか
イ・ガンインは韓国代表の中心選手であり、アジアで極めて高い人気を持つ。アトレティコは8月に韓国遠征を予定しており、加入直後から商業面でも大きな注目を集めることが予想される。
ただし、複数年にわたる追跡と大型投資を考えれば、マーケティングだけを目的とした補強ではない。クラブが必要としたのは左利きの創造性であり、その技術的価値が獲得の最大の理由である。
成功の基準はタイトル数ではない
PSGで3年間に12個のタイトルを獲得したイ・ガンインにとって、アトレティコ移籍の意味は優勝回数を増やすことだけではない。
重要な試合で先発に定着し、自らのプレーで攻撃を動かし、チームの中心選手として評価されることこそが、この移籍の本当の価値となる。
背番号7は期待の象徴である。しかし、その期待を現実に変えられるかどうかは、シメオネ監督の下で攻守両面の信頼を勝ち取り、主役として存在感を示せるかにかかっている。

