ワールドカップ2026準決勝でアルゼンチン代表がイングランド代表を2-1で下し、決勝へ進出した。85分まで0-1と追い込まれながら、エンソ・フェルナンデスとラウタロ・マルティネスのゴールでひっくり返した逆転劇である。リオネル・メッシは2得点をアシストし、前回王者を再び世界一決定戦へ導いた。
試合が行われたのは7月15日、米アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアム。アルゼンチンは19日にニュージャージーで開催される決勝でスペイン代表と対戦する。イングランドは1966年大会以来となるワールドカップ決勝進出を、あとわずかのところで逃した。
ゴードンの先制でイングランド優勢
前半は、両国が激しい球際の争いを繰り返す緊張感のある展開となった。イングランドはデクラン・ライスのセットプレーからジョン・ストーンズがヘディングで最初のシュートを放つなど、立ち上がりから明確にアルゼンチンのゴールへ向かった。
均衡が破れたのは55分だった。モーガン・ロジャーズが右サイドから鋭いクロスを送り、ファーサイドへ走り込んだアントニー・ゴードンが仕留めた。ゴードンは後方から飛び出す形でボールに合わせ、アルゼンチン守備陣の視界から消えていた。
先制後のイングランドは、無闇に守備ブロックを下げ切るのではなく、要所で前線から圧力をかけて試合を落ち着かせようとした。ハリー・ケイン、ジュード・ベリンガムらを擁するチームは、待望の決勝まで現実的な距離にいた。
ただし、ワールドカップ準決勝における1点差のリードは、勝利の保証ではない。相手には、得点機を一度逃しても試合から消えないメッシと、最後まで前へ出続ける前回王者がいた。
アルゼンチンはポストにも阻まれた
アルゼンチンは失点後、攻撃の重心を高めていった。76分にはロドリゴ・デ・パウルのクロスにアレクシス・マック・アリスターが頭で合わせたが、シュートはポストを直撃した。ジョーダン・ピックフォードが動けないほどのタイミングだっただけに、アルゼンチンにとっては決定的な惜機だった。
さらに69分には、ニコ・ゴンサレスのヘディングをピックフォードが片手で防ぐ場面もあった。イングランドのGKはこの試合で何度も重要な仕事を果たし、ゴードンの先制点と合わせて、試合の主導権を手繰り寄せる働きを見せていた。
しかし、アルゼンチンは焦って単調な放り込みへ移行しなかった。メッシを経由して攻撃の向きを変え、フェルナンデスやマック・アリスターが中盤から前向きにボールを受けることで、イングランド守備陣に判断を迫り続けた。
この時間帯のアルゼンチンは、見た目以上に試合を支配していた。スコアは劣勢でも、相手陣内でプレーする時間、こぼれ球を回収する回数、そしてセットプレーを獲得する頻度は増えていた。それが終盤の反撃につながった。
フェルナンデスが同点弾
85分、ついにアルゼンチンが追いつく。ショートコーナーからメッシがボールを預かり、エンソ・フェルナンデスへつないだ。フェルナンデスはペナルティーエリア外から迷いなく右足を振り抜き、強烈なシュートをゴールへ突き刺した。
このゴールは、単に個人のミドルシュートが決まった場面ではない。イングランドはメッシへの直接的な対応を意識するあまり、シュートレンジに入ったフェルナンデスへの寄せがわずかに遅れた。残り5分という局面で、アルゼンチンはその一瞬を逃さなかった。
フェルナンデスの一撃は、スタジアムの空気を完全に変えた。直前までイングランドは決勝進出を目前にしていたが、同点になったことで試合は一気にアルゼンチンの勢いへ傾いた。Sky Sportsも、アルゼンチンが交代策の後に主導権を強め、終盤の逆転に値する内容だったと報じている。
大一番で必要なのは、劣勢を覆すための勢いだけではない。セットプレーの形を作り、そこで空いたスペースを逃さず撃つ技術と冷静さである。フェルナンデスの同点弾は、アルゼンチンが持つ中盤の得点力を端的に示した。
メッシからラウタロ、92分の決勝点
同点後もアルゼンチンは攻める姿勢を崩さなかった。そして後半アディショナルタイムの92分、試合を決める場面が訪れた。
メッシが右サイドでボールを受け、ゴール前へクロスを送る。そこへ途中出場のラウタロ・マルティネスが入り込み、イングランド守備陣の間でヘディングを合わせた。ボールはネットを揺らし、アルゼンチンが2-1と逆転した。
ラウタロは、スイスとの準々決勝でも延長後半にゴールを挙げていた。準決勝では先発ではなく途中出場だったが、最も重要な局面でストライカーとしての仕事を果たした。試合終盤に相手守備陣の間へ入る動き、クロスに合わせる身体の使い方、そしてヘディングを枠へ収める精度がそろった決勝点だった。
メッシはこの試合でゴールを記録しなかった。それでもフェルナンデスへのパス、ラウタロへのクロスという2つの決定的な仕事を担った。試合を通じて常にボールを持つ必要はない。勝敗が揺れる数秒で、最善の選択を二度続ける。その存在感こそが、メッシがアルゼンチンにもたらした最大の価値だった。
スカローニが持つ攻撃の選択肢
アルゼンチンの強さをメッシだけで説明するのは不十分である。スカローニ監督のチームは、フェルナンデスのように中盤から得点できる選手、マック・アリスターのようにボックス内へ飛び込める選手、そしてラウタロのように途中出場でも試合を決められるストライカーをそろえている。
イングランド戦では、マック・アリスターがポストを叩き、ニコ・ゴンサレスがピックフォードの好セーブを引き出した。得点にならなかったプレーも含め、アルゼンチンは複数の選手がゴール前で脅威になっていた。相手がメッシを警戒するほど、周囲の選手にスペースが生まれる構図である。
準々決勝のスイス戦でも、メッシのセットプレーからマック・アリスターが得点し、フリアン・アルバレスとラウタロが延長戦で加点した。準決勝の逆転も含め、アルゼンチンはノックアウトステージで苦しい試合を続けて勝ち抜いてきた。これは偶然の連続ではなく、試合ごとに異なる得点者と解決策を出せるチームの厚みを示している。
イングランドが失った60年ぶりの機会
イングランドにとって、この敗戦は極めて厳しいものとなった。1966年に自国開催で優勝して以来、ワールドカップ決勝には到達していない。ゴードンのゴールで先制し、通常時間残り5分まで1-0でリードしていただけに、逆転負けの衝撃は大きい。
もちろん、イングランドが何もできずに敗れたわけではない。ノルウェーとの準々決勝を延長戦で2-1と制し、アルゼンチン戦でも組織的な守備と素早い攻撃で先制に成功した。大会を通じて競争力を示したことは間違いない。
一方で、決勝進出を争う局面では、リードを守るだけでは不十分だった。アルゼンチンに押し込まれた時間でセットプレーを与え、フェルナンデスへシュートを打たせた。そして同点後、守備陣の間でラウタロを捕まえ切れなかった。個人だけの責任ではなく、終盤におけるチーム全体の対応として検証すべき敗戦である。
スペインとの決勝、連覇への挑戦
アルゼンチンは決勝でスペインと対戦する。決勝は7月19日、ニュージャージー州イーストラザフォードのメットライフ・スタジアムで開催される予定だ。
前回王者アルゼンチンが優勝すれば、ワールドカップ連覇となる。準決勝のイングランド戦は、完成度の高い90分間だったわけではない。先制を許し、ポストにも阻まれ、あと一歩で大会を去るところまで追い込まれた。
それでも、アルゼンチンは試合を終わらせなかった。メッシが勝負どころで2度のアシストを記録し、フェルナンデスとラウタロがそれをゴールに変えた。この逆転勝利は、勢いだけでなく、苦しい局面を勝利へ変える前回王者の経験と選手層を証明した一戦だった。

