2026年北中米ワールドカップで優勝候補スペインの象徴的存在として最大の注目を集めてきたラミン・ヤマル。準々決勝ベルギー戦を2-1で制し、7月14日(日本時間15日)にダラスで行われる準決勝ではフランスとの対戦が確定したが、チームの好結果とは裏腹に「18歳の主役は本来の輝きに届いていない」という論調が国内外で強まっている。
ハムストリング負傷という誤算
ヤマルのW杯不振の出発点は、大会直前に負った大きな負傷にある。2026年4月22日、バルセロナがセルタと対戦した試合でPK直後に左足ハムストリングを負傷したヤマルは、クラブの今季残り全試合を欠場することが決定した。バルセロナ公式は当時「今季残りの試合には出場できないが、W杯には出場できるものと予想される」と発表したが、本人も「大会を欠場するのではないかと不安だった」と後に明かしており、W杯開幕直前まで出場そのものが危ぶまれる状況が続いた。
この負傷は単なる不運では済まされない側面も持つ。ハンジ・フリック監督によるクラブでの過密日程・酷使が原因ではないかという批判もSNS上で拡散され、若き才能の起用法をめぐる議論に発展した経緯がある。この一件は、日本の久保建英が所属するレアル・ソシエダなど、欧州でプレーする選手全般に共通する「クラブと代表の負荷管理」という構造的課題を映し出す出来事でもあった。
出場制限が続いたグループステージ
負傷からの復帰は段階的に進められ、大会前半は思うようなプレー機会を得られない展開となった。グループステージ第1戦のカーボベルデ戦(6月15日)では先発を回避し、後半26分からわずか19分間のみプレーするにとどまり、スペインはこの試合をスコアレスドローで終えている。
第2戦のサウジアラビア戦(6月21日)ではW杯初先発を果たし、開始10分で自身初のW杯ゴールを記録する「夢のような」デビューを飾った。しかし、コンディション管理を最優先した結果、前半終了時点でベンチに下がる判断が下され、デ・ラ・フエンテ監督は「フル出場できる状態」としながらも慎重な起用方針を維持し続けた。BBCやESPNはこの試合を「これがヤマルのワールドカップになるかもしれない」と評価したが、それ以降は同様の勢いを継続できていないという見方が支配的になっていく。
決定的な仕事に手が届かない大会
決勝トーナメント進出以降も、ヤマルのプレーぶりに対する評価は一様に高いとは言えない状況が続いている。ラウンド32のオーストリア戦では、SNS上で「TikTok映えのプレーを追っている」「フィットしていない」といった手厳しいファンの声が伝えられ、大会通算では複数試合出場・1得点というスタッツにとどまった。これはクラブでの離脱前の圧倒的な数字(今季公式戦45試合24得点18アシスト)とは大きな差があり、ギャップの大きさがそのまま「輝ききれていない」という印象を強めている。
米メディアTheAnalystは、サウジアラビア戦のプレー内容についても「完璧ではなかった」と評し、味方がより良い位置にいる場面でも単独突破を選ぶ判断の甘さを指摘した。デ・ラ・フエンテ監督自身も英メディアの取材に対して「まだ彼の攻撃的な最高の姿を見ていない」と明言し、マークが集中することで生まれるスペースを味方が使う速いボール回しの重要性を語っている点は、チーム全体の戦術的課題としても興味深い。
ベルギー戦でも際立った「途中出場組頼み」の構図
7月10日(日本時間11日)にロサンゼルス・スタジアムで行われた準々決勝ベルギー戦は、スペインが2-1で勝利し準決勝進出を決めた。試合は終盤までもつれる接戦となり、決勝点は後半88分、途中出場のミケル・メリノがベルギーの控えGKセンネ・ラーメンスが弾いたリバウンドを押し込んだゴールだった。
この試合でもヤマルが直接ゴールやアシストに絡んだという確定情報は見当たらず、大会全体を通じて浮かび上がるのは「主役級のヤマルではなく、途中出場組がチームを勝たせている」という構図である。実際、直前のラウンド16ポルトガル戦でもメリーノが後半91分に決勝点を挙げてクリスティアーノ・ロナウドのW杯キャリアに幕を引いており、2試合連続で同じ選手が土俵際の決定力を発揮する形になった。優勝候補スペインがチームとして結果を出し続けている一方で、その象徴であるはずのヤマルが試合を決定づける仕事から遠ざかっているというねじれが、大会を通じて繰り返されていると言える。
本人が認めた重圧との向き合い方
こうした状況について、ヤマル自身も自己評価の低さを口にしている。フランスメディアRMC Sportの取材に対し、ヤマルは「期待していた決定的なプレーを出せなかった」と率直な思いを語ったと報じられている。18歳という年齢で世界最大の舞台に立ち、SNS時代特有の過熱した注目とプレッシャーに晒されながらプレーすることの難しさは、単純な技術論だけでは説明できない側面を持つ。
デ・ラ・フエンテ監督は準々決勝を前にした会見で「ラミン・ヤマル2.0」への期待を口にし、コンディションが上向いていることを強調していた。ベルギー戦の勝利によって大会は準決勝という新たなステージに進んだが、ヤマル個人としてはまだ「本来の姿」を示せていないという評価が続いており、その真価はフランス戦以降にこそ問われることになる。
フランス戦へ持ち込まれる課題
7月9日の準々決勝でフランスがモロッコを2-0で下したことにより、準決勝はスペイン対フランスという構図で7月14日(日本時間15日)にダラスで開催されることが確定した。キリアン・エムバペを擁するフランスとの対戦は、ヤマルにとって国際大会での既視感のある舞台でもある。2025年6月のUEFAネーションズリーグ準決勝では、ヤマルが2得点を記録してスペインをフランスとの打ち合いで5-4の勝利に導いた実績があり、この時のパフォーマンスと現在のW杯での物足りなさとの対比は、この問いをより鮮明にする材料となる。
フランス戦でヤマルが「輝ききれていない」という評価を覆せるかどうかは、スペインの決勝進出だけでなく、ヤマル自身の18歳での初めてのW杯がどのような結末を迎えるかを決定づける重要な分岐点になるだろう。

