FIFAワールドカップ2026決勝トーナメント2回戦で、モロッコが開催国カナダを3-0で下し、2大会連続でベスト8進出を果たした。7月4日(日本時間5日)にヒューストン・スタジアムで行われたこの試合は、アフリカ勢として史上初めて複数回の準々決勝進出を果たす歴史的な一戦となった。カタール大会での旋風的な4強進出から4年、モロッコは「一度きりの快挙」ではなく「継続的な強さ」を持つチームであることを改めて証明した格好だ。
荒れた前半から一転、後半に流れが変わる
試合は序盤から激しい応酬となり、前半だけで両チーム合わせて6枚のイエローカードが出るという荒れた展開だった。カナダは開催国としての勢いを背景に果敢に攻め込み、ホームの大声援を受けながら積極的にラインを高く設定してモロッコ陣内でのプレーを増やそうとした。しかしモロッコの堅い守備を崩すことができず、決定的な形を作れないまま前半は無得点で終わった。FIFAランキングでは6位のモロッコに対しカナダは30位と大きな差があり、下馬評でもモロッコが優位と見られていたが、試合の入りはむしろカナダが主導権を握る場面が目立ち、番狂わせの空気すら漂っていた。
こうした緊張感の高い展開は、両チームの選手たちの気迫の表れでもあった。イエローカードの多さは単なる荒れた試合という表面的な事実以上に、開催国としての誇りをかけたカナダの必死さと、それに真正面から応じたモロッコの覚悟を映し出していたと言える。しかし後半に入ると、モロッコが徐々にペースを握り始める。50分、右サイドで得たFKからアシュラフ・ハキミが送ったグラウンダークロスに、MFアゼディン・ウナヒ(ジローナ)が右足ダイレクトで合わせて先制点をたたき込んだ。この一撃は単なる1点ではなく、それまで拮抗していた試合の均衡を一気に崩す重要な意味を持つゴールとなった。
ウナヒの2ゴールが勝負を決定づける
先制後もモロッコは決して守りに入らなかった。むしろ点差を広げようとする姿勢を最後まで崩さず、82分にはブラヒム・ディアスのパスを受けたウナヒが中央から冷静にシュートを流し込み、この試合2点目、自身にとっては値千金のブレースを記録した。1点を守り切る戦い方ではなく、追加点を狙い続けた積極性がこのゴールに直結したと言える。32分の時間を挟んで生まれた2つのゴールは、ウナヒ個人のコンディションの良さだけでなく、チーム全体が一貫して前へのめり込む姿勢を保っていたことの証明でもあった。
ジローナで飛躍を遂げているウナヒにとって、この大舞台でのブレースは代表チームの中心選手としての地位を確固たるものにする結果となった。カタール大会でも印象的なパフォーマンスを見せた彼だが、今大会ではよりゴールに直結する形で存在感を発揮しており、モロッコ攻撃陣の進化を象徴する選手と言える。
そして試合終了間際、ディアスのアシストからFWスフィアン・ラヒミが3点目をねじ込み、試合を完全に締めくくった。リードを奪った後も足を止めず、むしろギアを上げて攻め続けたモロッコの姿勢が、最終的にカナダを完全に沈める形となった。The Guardianも今回の勝利を「Ounahi and Rahimi put Morocco in World Cup quarter-finals and end Canada’s journey」と報じ、ウナヒの活躍を中心に試合を総括している。この3点目は単なる駄目押しではなく、モロッコが試合を通じて貫いた攻撃的な姿勢の最終的な帰結だったと見ることができる。
攻め続けた姿勢が結果に直結
この試合で特筆すべきは、モロッコが1点、2点とリードを広げてからも攻撃の手を緩めなかった点である。多くのチームであれば逃げ切りを意識してラインを下げ、ボールを回して時間を消費する選択を取りがちな場面だが、モロッコは終始アグレッシブに前へ出続けた。50分の先制点から82分の追加点、そして試合終了間際の3点目まで、時間を追うごとにゴールを重ねていく展開は、リードを守るための消極的なサッカーではなく、勝利を確実にするための積極的なサッカーを貫いた結果と言える。
こうした戦い方は、リスクを伴うものでもある。守備を固めずに攻撃を継続すれば、カウンターを受けるリスクは当然高まる。しかしモロッコはその代償を払うことなく、逆に追加点を重ねる形で試合を優位に進めた。これは選手個々の質の高さに加え、チーム全体としての自信、そして相手を突き放すことへの明確な意図があったからこそ実現した結果だろう。攻撃を継続することでカナダに反撃の時間とスペースを与えず、試合の主導権を握り続けたことが、結果的に最も効率的な「勝利の確実化」につながったと言える。
AP通信配信記事(SFクロニクル等)も、モロッコが複数回準々決勝進出を果たした初のアフリカ勢になったことを歴史的な意味合いとして強調しており、単に守り切った勝利ではなく、主導権を握り続けた末の完勝だったことがうかがえる。GKヤシン・ブヌ(アルヒラル)も安定したセービングで無失点を演出したが、守備陣が守りに専念する場面が少なかったのは、前線が攻撃を継続し続けたことでカナダに攻め込む余力を与えなかったことの裏返しでもある。守備の安定と攻撃の継続性が両立していたことこそが、この日のモロッコの強さの本質だったと言えるだろう。
新体制ウアビ監督の采配が光る
今回の勝利は、指揮官モハメド・ウアビにとっても大きな意味を持つ。2026年3月、カタール大会でモロッコを4強に導いた名将ワリド・レグラギが大会数カ月前に突如退任し、後任としてウアビが就任していた。就任からわずか数カ月というタイミングでの重要なノックアウトステージ勝利は、新体制がチームにしっかりと浸透していることを示す結果となった。攻撃を最後まで緩めない姿勢は、選手たちが新監督のもとでも積極的なゲームプランを徹底できていることの証左とも言える。
指揮官交代という不安要素を抱えながら本大会に臨んだモロッコだが、ここまでの結果を見る限り、チームの根幹にある戦術的な規律とアイデンティティは揺らいでいない。むしろレグラギ時代に築かれた堅守速攻のスタイルに、より積極的な追撃姿勢が加わったようにも見える。この試合での攻撃を止めない姿勢は、ウアビ体制が単なる継承ではなく、独自の色を加えつつあることを示唆しているのかもしれない。
カタール大会との対比、そして次戦への展望
モロッコは2022年カタール大会のグループステージでもカナダと対戦し、2-1で勝利している。今回は決勝トーナメントでの再戦となり、当時よりも大きな点差で開催国を下したことは、チームの成長を象徴する結果とも言える。カタール大会当時のカナダは大会初出場で経験不足が目立ったが、今回は自国開催という大きなアドバンテージを持ちながらも、モロッコの前に完敗を強いられた。この結果の対比は、モロッコが単なる「一発屋」ではなく、大舞台での安定した強さを持つチームへと成長したことを裏付けるものだ。
一方、開催国カナダにとっても収穫はあった。ジェシー・マーシュ監督体制のもとで、カナダは自国開催のW杯で大会初勝利・初のグループステージ突破・初の決勝トーナメント進出を達成しており、今回の敗退はあったものの、自国サッカー史における確かな前進を示す大会になった。この経験は、今後のカナダ代表の強化にとって貴重な財産となるだろう。
モロッコは次戦、7月9日にボストンで行われる準々決勝でフランスと対戦する。フランスはパラグアイを1-0で下して勝ち上がっており、この対戦は2022年カタール大会準決勝の再戦となる可能性を秘めた注目のマッチアップだ。当時は前回大会準決勝でフランスに敗れたモロッコにとって、この試合はリベンジを果たす絶好の機会となる。攻撃の手を緩めない姿勢を今回証明したモロッコが、次のステージでも同じ積極性を貫けるかが、大会後半戦最大の見どころの一つとなりそうだ。

