2026年7月3日、ダラスで行われたFIFAワールドカップ2026・決勝トーナメント1回戦(ラウンド32)で、エジプト代表がオーストラリア代表とPK戦の激闘を繰り広げた。1-1のままPK戦にもつれ込んだこの試合で、キャプテンのモハメド・サラーが3人目のキッカーとして、あえてパネンカ式のPKを冷静に決め切り、エジプトを4-2の勝利、そして史上初のベスト16進出へと導いた。
前半に生まれた先制点
試合は前半13分に動いた。エジプトはセットプレーの流れからエマム・アシュールがヘディングで押し込み、先制に成功した。エジプトは今大会、グループステージでも歴史的な突破を果たしており、この日もその勢いを持ち込む形で試合の主導権を握った。
前半をリードしたまま折り返したエジプトだったが、オーストラリアも黒星覚悟の強度で応戦し、拮抗した展開が続いた。守備を固めながら反撃の機会をうかがうオーストラリアの粘りが、後半に結実することになる。
オウンゴールで同点、決着はPK戦へ
後半、オーストラリアはセットプレーの流れの中でチャンスを作り出し、エジプトの守備陣のクリアミスが自軍のゴールに入ってしまう不運なオウンゴールで同点に持ち込んだ。1-1のスコアはそのまま延長戦へ突入し、両チームともに決定的な追加点を奪えないまま120分間を終える。
決着はPK戦に委ねられることとなった。大観衆が見守る大舞台での一発勝負は、両チームの選手にとって計り知れない重圧を伴うものだった。
サラーが選んだ「パネンカ」という選択
PK戦は最終的に4-2でエジプトが制した。エジプトは全員が成功させる完璧なPKを見せ、その中でも際立ったのが3人目として登場したサラーの一撃だった。GKの動きを読み切り、ふわりとしたコースにボールを浮かせる高難度のパネンカ式PKを、堂々と沈めてみせたのだ。最後は4人目のDFホッサム・アブデルマギドが決めきり、エジプトの勝利を確定させた。
一方のオーストラリアは、複数のキッカーが成功させたものの、2人が失敗する結果となり、エジプトに歴史的な勝利を許すこととなった。パネンカは失敗すれば大きな批判を招くリスクの高い技であり、その選択自体がサラーの経験と自信の表れだったといえる。
サラー本人が語った選択の理由
試合後、BBCの取材に応じたサラーは、なぜあの重要な場面でパネンカを選んだのかについて率直に語っている。「誰かがやるなら僕しかいなかった。他の選手より経験を積んでいるし、皆に自信を与えたかった」と、チームの精神的な支柱としての自覚をにじませたコメントを残した。
さらにサラーは「歴史を作った。試合前にはチームメイトに『ここは君たちがプレーできる最高の舞台だ。楽しんで、プレッシャーに負けるな』と伝えていた」と振り返っており、単なる個人技ではなく、チーム全体への働きかけとしてこのPKを位置づけていたことがうかがえる。サポーターの前で涙を流す場面もあり、感情を大きく揺さぶられた一戦だったことが伝わってくる。
采配面の裏話、エムバペの映像が起爆剤に
海外メディアは、この歴史的勝利の背景に興味深い采配エピソードがあったと報じている。エジプトはPK戦に入る前、チーム内でレアル・マドリードのスター、キリアン・エムバペのPK success映像を選手たちに見せていたという。プレッシャーのかかる場面で成功のイメージを植え付ける、いわば心理的な準備の一手であり、この工夫が史上初のベスト16進出という結果につながったと分析されている。
こうした細部への配慮は、単なる個人の技術やメンタルだけでなく、チームとしての準備の質がPK戦の結果を左右する好例として、戦術的な観点からも注目に値する。
エジプトサッカー史における意義
この勝利がエジプトにとって特別なのは、単に一つの試合に勝ったという以上の意味を持つ点だ。エジプトは今大会、グループステージ初突破という壁を突破したのに続き、決勝トーナメント1回戦でも初勝利を挙げ、無敗でW杯史上初のベスト16進出を確定させた。
長年、W杯出場自体が悲願だったエジプトサッカーにとって、これは新たな時代の到来を象徴する出来事といえる。サラーという世界的スターの存在が、単なる個人の活躍を超えてチーム全体を歴史的な高みへと引き上げた好例として、今後も語られていくことになりそうだ。
オーストラリアの敗退とアジア勢全滅
対戦相手のオーストラリアにとっては悔しい結果となった。グループステージを2大会連続で突破していたが、PK戦の重圧に屈する形で大会を去ることとなった。この敗退により、今大会は出場枠が拡大し史上最多9カ国が参加していたアジア勢のうち、決勝トーナメントに進んだのは日本代表とオーストラリア代表のみだったが、両者ともラウンド32で姿を消し、アジア勢が全滅する結果となった。
120分間互角以上の戦いを見せたオーストラリアの奮闘そのものは高く評価されるべきものであり、次なる挑戦への糧となるはずだ。
今後の展望
エジプトはこの勝利により、ラウンド16でアルゼンチンとカーボベルデの勝者と対戦することが決まっている。世界的スーパースターを抱える強豪との対戦は、エジプトにとってさらなる大きな試練となるが、今回のようなチーム一丸となった勝負強さを発揮できれば、大会をさらに驚かせる可能性も残されている。
サラー個人としても、キャリアの中でも記憶に残る一戦を刻んだことは間違いない。次戦でどのようなパフォーマンスを見せるか、世界中のサッカーファンの注目が集まっている。

