日本代表のエース・久保建英(25歳、レアル・ソシエダード)が、日本時間6月30日午前2時にヒューストンで行われるFIFAワールドカップ2026決勝トーナメント1回戦・ブラジル戦を欠場することが正式に決まった。前日練習後に「状態グーです」とだけ取材陣に告げて立ち去った背番号8の姿が、歯がゆさと確かな回復意欲を同時に物語っている。グループリーグを通じて出場できたのは初戦のオランダ戦75分のみ。日本が20年ぶりにW杯でブラジルと相まみえる大一番を、エース抜きで戦わなければならない現実がのしかかる。
監督が前日会見で正式に明言
森保一監督(57)は現地時間6月28日、試合会場のヒューストン・スタジアムで行われた前日公式会見に出席し、久保の欠場を明確に言葉にした。「ブラジル戦に関して、久保はプレーすることはありません。まだ全体練習に入っていない。早く回復することを願っている。彼も急ピッチでコンディションを上げてくれている」。率直な言葉の裏には、本人も含めた周囲の焦りと願いが滲む。
グループリーグの3試合中、久保が出場できたのは初戦のオランダ戦(75分)のみ。第2節チュニジア戦・第3節スウェーデン戦は別合宿地でリハビリを続け、チームと行動をともにしながらも全体練習への合流は果たせなかった。ブラジル戦も欠場となれば、今大会での総出場時間はわずか75分。日本のエースとして最大の舞台に臨んだ今大会が、まさか出場機会ゼロに近い形で推移するとは、誰も予想していなかっただろう。ベンチ入りの可能性はゼロではないが、たとえ帯同しても出場はないことが確定している。
ダラスの衝撃——負傷の瞬間と周囲の反応
時計の針を戻すと、6月14日(日本時間15日)、テキサス州ダラスで行われたグループF第1節・オランダ戦の後半71分に悲劇は起きた。久保はドリブルで仕掛けた瞬間、デンゼル・ダンフリースの激しいタックルを受け、左膝が内側に折れ込む形で倒れた。自らバツ印を送って交代を要求し、75分に小川航基と入れ替わった。ピッチを後にした際には車椅子を使う姿が目撃され、スタジアムに衝撃が走った。
解説を務めた本田圭佑氏が「ウソやん、半月板かも」と絶望的な声を漏らしたほどの場面だった。翌15日に現地の病院でMRI検査を受け、JFAが左膝の負傷を公表。ただし、靱帯断裂などの最悪のケースは回避できたとみられる(詳細な診断内容の正式発表なし)。ブラジルメディア「Globo Esporte」も「ブラジル戦で日本の中心選手が欠場する」と報じ、相手国側でもその重要性が認識されていた。久保本人は試合直後に「問題ないと思う」とコメントしたが、その後の経過はより慎重な対応を必要とするものだった。
テーピングの左膝で、それでも前へ
欠場が決定的になった後も、久保はチームから一線を画すことなく行動をともにした。前日練習では円陣に参加した後、1人別メニューへ移行。左膝はテーピングでしっかりと固められ、トレーナーと話し合いながら負荷をかけたストレッチを丁寧に行っていた。リハビリの経過を段階的にたどると、ナッシュビルでの調整期間中には軽いランニングから始まり、ステップ動作のテスト、ボールコントロールと着実に負荷を上げてきた。スパイクを履いて芝の上に立ち、コーンを用いたドリブル練習を行う姿も確認されており、回復の進捗は当初の懸念よりも早いペースで進んでいる。
練習後にミックスゾーンを通り過ぎる際、状態を問われた久保は「状態グーです」とだけ言い残し、足早に立ち去った。試合には出られない。その現実は変わらない。しかしこの短い一言は、翌々日以降への確かな意志と自信の表れとして受け取ることができる。主将の板倉滉(アヤックス)も「タケ自身、昨日より今日のほうが落ち着いていると話していた。できるだけ軽症でいてほしいし、また一緒に戦いたい」と語り、チーム全体が早期復帰を強く願っている。
久保なしでグループリーグを乗り越えた日本の底力
結果として、久保不在のまま臨んだ2試合でも日本はグループFを突破した。チュニジア戦・スウェーデン戦では、システムの柔軟な運用と選手個々のパフォーマンスで乗り切り、勝ち点5でグループ2位通過を果たした。エースを欠いても機能する集団であることを証明した事実は、ブラジル戦に向けて一定の精神的な支えになる。
ただし、ブラジルはオランダとは次元の異なる相手だ。久保が担う右シャドーのポジションは、縦への推進力、相手の守備ブロックを崩す創造性、サイドチェンジの精度、そして局面の打開力を一人に求めるポジションであり、その代替は容易ではない。代役候補として名前が挙がるのは前田大然、堂安律、鎌田大地といった面々だが、いずれも役割の解釈が久保とは異なる。コレクティブな守備組織を軸に、カウンターと個の質で局面を打開する戦い方がより鮮明に求められる90分になるだろう。
PK戦への備えも——5度の世界王者に真っ向から挑む
森保監督はブラジル戦に向け、PK戦を想定したキッカーの蹴る順番を自ら決定する意向も前日会見で明らかにした。それほど緊迫した接戦を想定している、ということでもある。ブラジル(FIFAランク5位)対日本(同17位)——数字の上では大きな差があるが、2006年ドイツW杯以来20年ぶりとなるW杯での直接対決には、2025年10月の東京での親善試合で歴史的な好ゲームを演じた記憶が日本側の自信に繋がっている。
久保不在という痛手を踏まえれば、日本の最大の武器は組織的な守備の安定性と、少ないチャンスを確実に仕留める集中力だ。ブラジルのヴィニシウスやホドリゴら個の圧倒的なクオリティに対して、ブロックを崩さない守備と素早いトランジションで対抗できるか。エースのいないままで戦い抜く覚悟が、今まさに問われている。
2回戦以降の復帰シナリオ——「急ピッチ」の意味
森保監督が繰り返した「急ピッチでコンディションを上げてくれている」という言葉は、単なる励ましではない。実際の回復過程を見ると、オランダ戦から2週間を経た現在、久保はグラウンドでのボール作業を再開し、ステップ動作を確認し、スパイクを履いてのランニングをこなすところまで来ている。最悪の事態とされた靱帯断裂を回避できたとみられることを考えれば、ブラジル戦後のインターバル次第で、次の8強の舞台に間に合う可能性は十分に残っている。
日本がブラジルを破って準々決勝(8強)に進出した場合、そこまでの日程的猶予が久保の回復に追い風になりうる。フルコンディションの久保がピッチに戻ってきたとき、日本は初めて「攻撃の全オプションが揃った状態」でW杯の決勝トーナメントに立てる。その可能性を信じるからこそ、チームメートも、スタッフも、そして日本のファンも、彼の回復を祈り続けている。
25歳のピークで迎えた試練——久保建英というサッカー選手の文脈
2022年カタール大会では主要な戦力として出場したものの、当時は「久保が軸」とまでは言い切れない位置づけだった。今回の北中米大会は違う。レアル・ソシエダードでラ・リーガを牽引するシーズンを経て、25歳という選手としてのピークで臨む初の「エース格」でのW杯だった。大会前から日本国内はもちろん、スペインや南米のメディアも久保の存在に注目し、「日本の至宝」という表現が誇張でなくなった今大会で、この負傷はあまりにも大きな皮肉だ。
しかし、物語はまだ終わっていない。ブラジル戦を仲間たちが制し、2回戦のピッチに久保が戻ってきたとき、この試練は「W杯での久保建英の物語」の序章に過ぎなかったことになる。「状態グーです」——その言葉を信じて、日本のファンはヒューストンの夜を待つ。

