FIFAワールドカップ2026北中米大会で、ノルウェー代表の応援スタイル「バイキング・ロー」が世界中を席巻している。28年ぶりの大舞台でハーランドやウーデゴールという現代サッカーを代表するスターを擁するノルウェーは、ピッチ上の戦いだけでなく、スタンドを埋めるサポーターとの一体感でも大会随一の存在感を発揮している。
28年ぶりの舞台——不在の長さが応援の熱量を生んだ
ノルウェーにとって今大会は1998年フランス大会以来、実に28年ぶり・7大会ぶり・4回目のW杯出場となる。その長い空白は、今大会に向けたサポーターの熱量を一気に解き放つ背景となった。
長らくW杯の舞台に立てなかったノルウェーが今大会で顔ぶれを揃えたのは、アーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)やマルティン・ウーデゴール(アーセナル)といった欧州トップリーグを主戦場とする黄金世代だ。FIFAランキング31位のノルウェーはグループIに入り、初戦から力強い戦いを見せてきた。
決勝トーナメント進出を決めたセネガル戦
グループI第2節、日本時間6月23日にニューヨーク・ニュージャージー・スタジアムで行われたセネガル戦でノルウェーは3-2と勝利し、2連勝で決勝トーナメント進出を確定させた。この試合でも2試合連続2ゴールを決めたのはハーランドで、チームの勝利を引き寄せた。終盤にイスマイラ・サール(クリスタルパレス)に1点差まで詰め寄られたが、最後まで守り切った。
グループI暫定順位はフランスが勝ち点6・得失点差5で首位、ノルウェーが勝ち点6・得失点差4で2位と2チームが並ぶ形になっている。6月26日、マサチューセッツ州フォックスボロでの最終節フランス戦がグループ首位通過をかけた直接対決となる。
試合後の「バイキング・ロー」——スタジアムが一つの船になった
セネガル戦後、ハーランド、チームメート、ソルバッケン監督までもがメットライフ・スタジアムのスタンド前に集まり、そろってピッチ上に体育座りした。主将ウーデゴールが太鼓を手に取り、リズムを刻み始めると、選手もサポーターも一体となって「バイキング・ロー」を披露した。その光景がSNSで一気に拡散され、ESPN、AP通信、FOX Soccerなど世界の主要メディアが次々と報じた。
NHKサッカー公式Xも「ハーランドも笑顔!”バイキング・ロー”でノルウェー、決勝トーナメントへ船出」と投稿し、日本国内でも大きな注目を集めた。ハーランド自身もこのセレブレーションについて「バイキング・ロウは、みんなネットで見たことはあった。試合前にウーデゴールが『どう思う?一緒に(サポーターに)参加するか?』と聞いてきたんだ」と語っており、選手全員が喜んで参加した様子が伝わってくる。
「バイキング・ロー」とは何か——動作と一体感の正体
「バイキング・ロー」とは、サポーターが地面や座席に座り込み、太鼓のビートに合わせて全員で前後に体を大きく揺らしながらオールを漕ぐような動作をし、タイミングを合わせて掛け声を発する応援スタイルだ。その動作は、まるで大型の船の漕ぎ手たちが息を合わせてバイキング船を推し進めているかのようである。
太鼓のリズムに合わせてスタジアム全体が同じ動作をするという点で、個人の応援がぶつかり合うのではなく、集団が「一つの意思」として動く様子に圧倒的な迫力が生まれる。そしてその迫力は、SNSの動画越しにも十分に伝わり、世界中のサッカーファンを虜にした。
バイキングの歴史に根ざした応援の誕生
この応援スタイルの背景には、ノルウェーの歴史が深く刻まれている。ノルウェーは、中世にヨーロッパ各地へ渡ったバイキング(ノルマン人)の故郷の一つとして知られており、彼らは「ロングシップ」と呼ばれる長船を操り、優れた航海技術で海を渡った。Euronewsによると、「バイキング・ロー」はそのロングシップの漕ぎ手からインスピレーションを得た応援スタイルだという。
この応援を語るうえで外せないのが、アイスランドの「バイキング・クラップ」との関係だ。2016年のEURO(欧州選手権)でアイスランドのサポーターが披露した「バイキング・クラップ」——両手を高く掲げてゆっくり手拍子をしながら掛け声を上げるスタイル——は世界的に話題になった。ノルウェーの「バイキング・ロー」はそのスタイルを受け継ぎながらも、「船を漕ぐ動作」という独自の要素を加えることで北欧サッカー応援文化の新たな表現を生み出した。クラップが「空に向かって手を打つ垂直の表現」だとすれば、ローは「水平に、力強く漕ぎ進む表現」といえる。
スタジアムの外へ——街中に広がった北欧の熱狂
今大会での「バイキング・ロー」はスタジアムの中だけにとどまらなかった。開催都市であるボストンやニューヨークの街中・ファンゾーンでも披露され、試合会場を訪れていないノルウェーサポーターや現地の市民をも巻き込んでいる。
FOX Soccer公式Xが「THE VIKING ROW IS IN FULL EFFECT」と投稿するなど、開催国アメリカのメディア・ファンも早い段階からこの応援に注目した。現地からは「なんてカッコいいんだ」「これこそ本物のバイキング」「すごくいいね」などの声が上がり、Redditでも「ノルウェーのサッカー代表チームとそのファンは、キャプテンのウーデゴールの先導でバイキング・ローをやっている」というスレッドが拡散した。産経新聞は6月24日付の記事で「28年ぶり決勝Tのノルウェー 国中を巻き込む『バイキング・ロー』旋風」と見出しを立てており、一つの応援スタイルがスポーツ文化的な現象として捉えられるまでに広がっていることがわかる。
日本でも「鳥肌が立った」——SNSで広がった共感の声
日本のサッカーファンのSNS反応も非常に大きい。「鳥肌が立った」「ハーランドもちゃんとやってる」「本当に本当に素晴らしい」「さすがバイキングの国」など、選手とサポーターが国の歴史や文化と一体になって喜びを表現する場面に感動する声が相次いだ。
日本のゴール裏文化は統率の取れたチャントや応援団によるサポーターの一体感でよく知られているが、「バイキング・ロー」が日本のファンに刺さった背景には、国の歴史的アイデンティティがそのまま応援の動作に昇華されているという「物語の強さ」があるからではないか。バイキングという誰もが知るノルウェーの象徴が、選手とファンをつなぐ演出として機能したとき、スポーツは文化の表現として最も輝く。
ハーランド・ウーデゴールが揃った今だからこそ
セレブレーションへの選手の参加が自発的だったことも見逃せない。試合前にウーデゴールが自ら「一緒に参加するか?」とチームメートに提案し、ハーランドたち全員が喜んで乗ったという。これはクラブレベルでは個別に世界中に散らばっている選手たちが、代表の舞台で「ノルウェー人」として一つになる瞬間の象徴だ。
ハーランドがプレミアリーグ最高峰のマンチェスター・シティで戦い、ウーデゴールがアーセナルのキャプテンとして重責を担い、それぞれ欧州の頂点で個人のキャリアを積み重ねている。その彼らが、28年ぶりにW杯の舞台でそろってピッチに座り込み、太鼓のビートに合わせて船を漕ぐ動作をする——その光景が世界に響いたのは、バイキング・ローが単なるパフォーマンスではなく、国の誇りとチームの団結を可視化するものだったからだ。
次なる「バイキング・ロー」へ——フランスと決勝T進出の先へ
グループ最終節となる6月26日のフランス戦は、フォックスボロのギレット・スタジアムで行われる。両チームとも勝ち点6で並んでおり、グループ首位通過をかけた事実上のプレーオフだ。フランスも得失点差で一歩リードしているが、勝てばノルウェーが首位通過となる。
この試合でも、メットライフ・スタジアムを震わせたバイキング・ローがスタンドを席巻するはずだ。決勝トーナメントに進めば注目度はさらに高まり、「バイキング・ロー」を象徴とするノルウェー代表の存在感が大会を通じて語られることになるだろう。W杯は試合だけではない。誰がどんな物語を抱えてピッチに立ち、どんな文化を世界に見せるか——ノルウェーは28年分の思いを乗せた船を、今まさに漕ぎ進めている。

