ブラジルとモロッコグループC突破、この2チームはなぜ強いのか?[W杯2026]

ナショナルチーム

2026年FIFAワールドカップのグループCで、ブラジルとモロッコがともに突破を果たした。開幕戦で両国が1-1の引き分けを演じてから最終節まで、勝点7で並んだ2チームの強さの構造はまったく異なる。南米の王者とアフリカ革命の旗手が同じ舞台で切り結んだこのグループは、現代サッカーにおける「強さの2つの哲学」を色鮮やかに浮かび上がらせた。

グループC全試合の経過

第1節(6月13日)——ブラジル 1-1 モロッコ

開幕戦から、このグループが単純ではないことが証明された。テキサス州アーリントンで行われた直接対決で、モロッコが21分にイスマイル・サイバリの先制点で試合を支配。ブラジルは32分、ヴィニシウス・ジュニオールのゴールで追いつくのが精一杯だった。試合を通じてモロッコが放ったシュートはブラジルを大幅に上回り、試合後はイエローカード枚数の差でモロッコが暫定首位に立つという結果に終わった。

第2節(6月19日)——ブラジル 3-0 ハイチ、モロッコ 1-0 スコットランド

第2節でブラジルは本来の力を示した。フィラデルフィアでのハイチ戦は、マテウス・クーニャが23分・36分と2得点、ヴィニシウスが45+3分に3点目を挙げる前半だけで試合を決定づける3-0の完勝。前節のモロッコ戦と打って変わって鋭く連動した攻撃が炸裂し、ハイチは大会初のチームとして早々に敗退が決定した。

一方モロッコも同日、フォックスボローでのスコットランド戦でサイバリがわずか72秒で先制ゴールを決める衝撃の立ち上がり。そのまま1-0で逃げ切り、2試合で2勝の勝点6として首位をキープ。スコットランドはこの試合少なくとも1本のPKを得るべき場面を見逃されたとの指摘もあり、試合後に議論を呼んだ。

第3節(6月24日)——ブラジル 3-0 スコットランド、モロッコ 4-2 ハイチ

最終節でブラジルはマイアミでスコットランドを3-0と一蹴し、グループ首位を確定。この試合では負傷離脱していたネイマールが代表復帰を果たしたことも話題を集めた。モロッコはアトランタでのハイチ戦で2度リードを許すというまさかの展開を演じながら、ハキミ(39分)・サイバリ(45+1分)で追いつき、後半にスーフィアン・ラヒミ(78分)、ゲシム・ヤシン(89分)の交代選手2人が値千金のゴールを決めて4-2の逆転勝利。サイバリは3試合連続ゴールというモロッコ人として史上初の快挙を達成した。

最終成績はブラジルが得失点差+6で1位、モロッコが+3で2位。同勝点7ながら、ブラジルのハイチ・スコットランドへの2試合での圧勝が明暗を分けた。

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ブラジルが強い理由①——タブーを破った監督の哲学

ブラジルの強さの根幹に、カルロ・アンチェロッティという存在がある。1925年以来のブラジル代表史上2人目の外国人監督。その就任は国内に大きな議論を呼んだが、UCLを5度制したこの指揮官がもたらしたのは「勝つためのリアリズム」だった。

アンチェロッティのブラジルは、かつての「ジョゴ・ボニート(美しいサッカー)」から意図的に距離を置いている。ヴィニシウス・ジュニオール本人がW杯前のインタビューでこう語っている。「全員が守備に戻り、カウンターでは自分たちの自然なブラジルらしさを発揮する自由を与えてくれる」。レアル・マドリードでアンチェロッティのもとで磨かれたその感覚を、セレソンでも再現する——それが今のブラジルの戦い方だ。

予選での数字がその方向性を裏付ける。CONMEBOL予選でブラジルは平均0.94失点/試合という守備の安定を手に入れた。かつて「攻撃は一流、守備は脆い」と言われたブラジルが、ついに守備組織を戦術の土台に据えることを選んだのだ。アンチェロッティ自身は「大統領よりもプレッシャーがある」と語りながらも、グループを通じて7得点・1失点という数字でその采配の正しさを証明してみせた。

ブラジルが強い理由②——ヴィニシウスとラフィーニャという世界最高水準のウインガー

現在のブラジルが保有する最大の武器は、世界水準のウインガー2枚看板だ。ヴィニシウス・ジュニオールとラフィーニャは、クラブレベルでも代表レベルでも傑出した数字を残し続けている。

ラフィーニャはバルセロナで14試合13得点9アシストという圧倒的な成績を残し、今大会のハイチ戦でもヴィニシウスのゴールをお膳立てする推進力を見せた。この2人が左右のウイングに並ぶことで、相手の守備ラインは常に幅を広げることを強いられ、その間隙をブルーノ・ギマランイスらが縦パスで刺していく。アンチェロッティが「ライン間に差し込むパス」を得意とするギマランイスの特性を最大限に活かす設計は、レアル・マドリード時代とまったく同じ発想から生まれている。

マテウス・クーニャ(マンチェスター・ユナイテッド)がハイチ戦でW杯初得点を2発でマークしたことも、ブラジルのスカッドの厚みを示している。主将マルキーニョスとガブリエル・マガリャンイス(アーセナル)のCBコンビが後方を締め、カゼミーロが中盤の守備ブロックを担う構造は、攻守両面でバランスが取れている。

モロッコが強い理由①——組織が攻撃の出発点になる戦術哲学

モロッコの強さを語るとき、2022年カタールW杯での4位という歴史的快挙を抜きにはできない。スペインとポルトガルを撃破したあの旋風を設計したワリド・レグラギ監督は、AFCON決勝敗退の責任を取るかたちで退任。後任のモハメド・オウアビは、U-20代表を率いてアルゼンチンを決勝で下し世界王者に導いた指揮官だ。

オウアビが継承したのは「守備が攻撃の出発点になる」という戦術哲学だ。4-1-4-1のブロックで相手の前進を妨害し、ボールを奪った瞬間に素早く縦へ転換する。開幕戦のブラジル戦でサイバリが記録したプレッシャー回数は大会記録ペースと評されるほどで、前線から組織的に圧力をかける設計の精度は世界水準に達している。ブラジル対モロッコの試合では、前半だけでモロッコがブラジルを大幅に上回るシュートを放ったという事実が、「組織守備→素早い転換→攻撃」という構造の威力を示している。

ハイチ戦では2度リードを許す難しい展開になったものの、最後は交代選手のラヒミとヤシンが試合を決める逆転勝利。スカッドの厚みと「苦しくても諦めない」という精神的な強さも、このチームの確かな武器だ。

モロッコが強い理由②——欧州育ちの「逆輸入戦士」たちが底上げした質

モロッコ代表の26人中、大多数がヨーロッパ生まれという事実は、このチームの強さの根本的な秘密のひとつだ。フランス、スペイン、ベルギー、オランダ等の欧州トップリーグで育った選手たちが「母国」モロッコの代表として出場することで、クラブレベルで磨かれた戦術理解と技術を代表チームに持ち込んでいる。

最大の象徴が、アシュラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン)だ。W杯においてアフリカ人選手として最多出場タイ記録(11試合)を持つこのSBは、ハイチ戦でも同点ゴールを挙げる攻守の主軸として機能し続けた。そして今大会で最も注目を集めているのがブラヒム・ディアス(レアル・マドリード)だ。スペインのマラガ生まれ、モロッコ系の父を持つこの26歳は、マンチェスター・シティ、ACミラン、レアル・マドリードを渡り歩いた後モロッコ代表入りを決断。今大会でも複数のアシストを記録し、チームの攻撃の創造性を担っている。

GKのヤシン・ブヌ(セビージャ)が守備の最後尾を締め、イスマイル・サイバリ(PSVアイントホーフェン)が3試合連続ゴールという偉業を達成するなど、欧州クラブでレギュラーを張る選手たちが互いの役割を高い解像度で理解しているからこそ、組織としてのモロッコは試合を追うごとに強度を増す。

「戦術規律」対「個の爆発力」——直接対決が示した現代サッカーの縮図

ブラジルとモロッコの直接対決は、現代サッカーにおける2つの強さの哲学が真正面からぶつかった試合だった。モロッコの組織的プレッシングとブロック守備がブラジルの攻撃を前半は封じ込め、ブラジルはヴィニシウスの個人技によるワンプレーでなんとか追いついた。

アンチェロッティのブラジルが「個の質を組織で支える」チームなら、オウアビのモロッコは「組織の精度で個の質を引き出す」チームだ。前者は守備からカウンターへの転換速度、後者は守備ブロックの高さと圧力という異なる武器で相手を崩そうとする。1-1という結果は、その2つの哲学が互いを完全には打ち破れなかった証左だった。最終節でブラジルがスコットランドを3-0で下して得失点差を積み上げグループ首位に立ったのも、モロッコが土壇場の逆転劇でグループ突破を決めたのも、それぞれの哲学が別の形で結実した瞬間だった。

ノックアウトラウンドへの展望

グループを突破したブラジルとモロッコには、それぞれ異なる課題が残る。ブラジルはサイドバックの攻守両面での脆弱性が予選から指摘されており、またハイチ・スコットランドという格下相手にしか複数得点を奪えていない点は、強豪と対峙したときの攻撃力への問いとして残る。ブラジルはグループFの2位チームとヒューストンで対戦予定だ。

モロッコはハイチ戦で2度のビハインドを逆転するという精神的強さを見せた一方で、序盤に「格下」に先制を許す脆弱さも露呈した。カタール2022の「奇跡」を「必然」に変えるためには、ラウンド32以降でより強固な相手を崩し切る攻撃の創造性を示す必要がある。

2026年W杯は、まだ始まったばかりだ。「守備から生まれるカウンター」を追い求めるブラジルと、「組織の精度で個を輝かせる」モロッコ——この2チームの旅がどこまで続くか、それぞれのサッカー哲学の答えはノックアウトラウンドで問われることになる。

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