日本代表と対戦のチュニジア新監督はどんな人?電撃解任後に就任のルナール戦術は脅威か?[W杯2026]

A代表

6月20日(日本時間21日)、FIFAワールドカップ北中米大会グループFの第2戦で日本代表はチュニジアと対戦する。だが、試合直前にチュニジアは前代未聞の事態を引き起こした。初戦のわずか1試合後に監督を解任し、後任にエルベ・ルナール氏(57)を迎えたのだ。日本とは幾度も対戦経験のある”知将”が、土壇場でチームを掌握する。これは日本にとって吉報か、それとも新たな脅威の始まりか。

スウェーデン戦1-5大敗と異例の電撃解任

チュニジアにとって、初戦の結末はあまりにも残酷だった。6月14日にメキシコ・モンテレイで行われたスウェーデン戦、チュニジアは前半だけで3失点を喫し、最終スコア1-5という屈辱的な大敗を喫した。得点はヤシン・アヤリの1点のみにとどまり、アフリカ予選で堅守を誇っていたチームの守備組織は完全に崩壊した形となった。

この結果を受け、チュニジアサッカー連盟は翌16日、公式インスタグラムでサブリ・ラムシ監督(54)との契約終了を正式発表した。W杯本大会中に、たった1試合の結果で監督交代を断行するのは近年の大会では極めて異例の判断だ。協会会長はラムシ前監督との契約は「友好的に終了した」と説明したが、実質的には解任に他ならない。

後任として就任が発表されたのが、フランス出身のエルベ・ルナール氏。契約はW杯北中米大会終了までとされており、ルナールは発表当日中にメキシコ入りし、同日夜の練習からチームに合流。日本戦までに実質3〜4日しかない、まさに火中の栗を拾う就任となった。

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“白い魔術師”エルベ・ルナールとはどんな指揮官か

エルベ・ルナールは現代サッカー界において最もユニークなキャリアを持つ指揮官の一人だ。フランス出身ながら、アフリカとアジアに活躍の場を求め、その地でいくつもの歴史的偉業を成し遂げてきた。

最も知られるのは、ザンビア代表をアフリカネイションズカップ(AFCON)2012年大会で初優勝に導いたこと。その後コートジボワール代表でも同大会2015年を制し、アフリカ王者の座に2度立つという前代未聞の記録を打ち立てた。さらにモロッコ代表も指揮し、アフリカの様々な国を国際舞台で輝かせてきたことから「白い魔術師」「白シャツの名将」の異名を持つ(試合時に白いシャツを着用することでも知られる)。

アフリカ以外ではサウジアラビア代表監督を2度務めたことも大きな実績だ。1度目の在任中には2022年カタールW杯でアルゼンチンを2-1で撃破という大金星を演出。サウジが「グループ最大の番狂わせ」として世界を驚かせたあの試合の立役者である。また2025年には男子W杯だけでなくフランス女子代表も率いており、男女両W杯の指揮経験を持つ非常に稀なキャリアを誇る。

守備ブロックとトランジション——ルナール戦術の核心

ルナールの戦術には、国が変わり、選手が変わっても一貫したフィロソフィーがある。その軸は「守備組織の徹底構築」と「トランジションの速さ」だ。

典型的な布陣は5-4-1(または4-5-1)で、自陣深くに2ラインの守備ブロックを形成し、相手の攻撃を跳ね返してから素早いカウンターを狙う。特に格上相手や、自チームの状態が芳しくない際に顕著で、ハイプレスよりもコンパクトなブロックを優先する傾向が強い。個の能力よりも集団としての規律と組織力を重んじるため、新天地でも短期間で守備の形を整えられるのがルナールの最大の強みと言えるだろう。

攻撃面はシンプルで、サイドを起点にしたカウンター速攻が中心。長いボールで前線へ当て、セカンドボールを回収するパターンや、サイドでの数的優位を利用したクロス攻撃も好む。華麗なポゼッションよりも、少ない手数でゴールに迫るプラグマティックなサッカーが基本スタイルだ。

日本を知り尽くした指揮官、その脅威

ルナール就任が日本にとって単なる「相手の混乱」でないのは、彼が日本代表を熟知しているからだ。サウジアラビア代表監督時代(2度の就任期間)に森保ジャパンと計4度対戦しており、その通算成績は1勝1分け2敗と互角以上の数字が残っている。

なかでも最も記憶に新しいのが2025年3月、埼玉スタジアム2002で行われたW杯アジア最終予選での一戦だ。ルナールは5-4-1のブロックで日本の攻撃を完封し、0-0のスコアレスドローに持ち込んだ。試合後の会見でルナール自身が「守備面は計画通り」と語ったように、日本の攻撃パターンを徹底的に研究したうえで狙い通りの結果を引き出してみせた。

就任会見でルナールは「日本はアジアで最も優れたチームだ。彼らのプレーは素晴らしかった。これまで何度も対戦してきた」と語った。この発言は単なるリップサービスではなく、深い研究に裏打ちされた言葉として受け取るべきだろう。「ルナールが日本戦で守備ブロックを敷いてくる(いわゆる”バスを置く”)可能性は十中八九」との見方が専門家の間では支配的だ。

解任ブーストと「コスタリカ戦の悪夢」の再来リスク

では、日本はチュニジアの監督交代を「ラッキー」と捉えていいのだろうか。専門家の答えは「断じてノー」だ。

元北朝鮮代表でJリーグでの長いキャリアも持つ鄭大世氏は、「監督が代わった直後にチームが奮起する現象はサッカー界でよく起きる」と指摘する。監督解任という非常事態に際して選手たちが退路を断たれ、結束が強まるケースは枚挙にいとまがない。しかも今回のチュニジアは「この試合に負ければ事実上グループ敗退が確定する」という背水の陣。負けを恐れない捨て身のサッカーが出てくる可能性は否定できない。

さらに多くのサッカー識者が懸念するのが、2022年カタールW杯での「コスタリカ戦の悪夢」との構造的な類似だ。あの大会でも日本はドイツを撃破し、「第2戦のコスタリカにも勝てる」という雰囲気が漂うなか、0-1で足をすくわれた。今回も「オランダと引き分けた→チュニジアなら勝てる」という油断が生まれれば、歴史は繰り返しかねない。

森保一監督率いる日本代表も警戒は怠っていない。初戦翌日の15日には、長友佑都の提案でオランダ戦のビデオレビューとチュニジア戦に向けた意識合わせのための2度目の選手ミーティングが実施された。森保監督が繰り返し強調してきた「想定外も想定内に」というチームの哲学が、今まさに試されている。

グループFの構図と第2戦の意味

現時点のグループFは、スウェーデンが勝ち点3でトップを走り、日本とオランダが勝ち点1で並び、チュニジアは勝ち点0の最下位だ。

日本にとって第2戦は過去の大会でも苦手意識が強い。W杯での第2戦成績は1勝3分け3敗という厳しい数字が残っており、勝ちきれずに痛い目を見てきた「鬼門」でもある。仮にここでチュニジアに敗れると、第3戦はグループ突破をかけてスウェーデンやオランダといった強豪と直接対決になりかねない。逆にここで勝ち点3を取れれば、グループ首位通過も視野に入る非常に重要な一戦だ。

またチュニジアが勝利を収めれば、グループFの混戦具合はさらに深まる。スウェーデン対オランダの結果次第では、第3節まで勝ち抜け争いがもつれる展開も十分ありえる。日本にとっては自分たちの都合だけでなく、グループ全体の行方を左右する可能性を帯びた一戦となる。

日本が勝利するためのポイント

実質4日間でチームを掌握しなければならないルナールには、さすがにできることとできないことがある。完全なフォーメーション変更や新たな攻撃パターンの植え付けは時間的に難しく、おそらく選手に浸透させられるのは「守備ブロックの整備」と「メンタリティの高揚」の2点に絞られるだろう。

そうなると日本が意識すべきは、堅固な5バックと4ラインのブロックをどう崩すかだ。前線からのプレッシングで相手ビルドアップに圧力をかけつつ、サイドの深い位置への侵入からクロスを供給するパターン、もしくはセットプレーでの先制が現実的な攻略ルートになる。カウンターのリスクケアも重要で、守備ラインの背後のスペースを突かれないようなコンパクトな陣形維持が求められる。

何より重要なのは「前半の早い時間帯に先制点を奪う」ことだ。チュニジアがバスを置いたとしても、リードを奪われれば守備ブロックを捨てて前に出てこざるを得ない。そうなれば日本のカウンターが活きる局面も生まれる。グループ突破をより確実にするためにも、逃げ切りではなく主導権を握り続けてのゲームコントロールが森保ジャパンに求められる姿だ。

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